読書備忘録

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堂場瞬一著「沈黙の終わり」(上・下)

2022-09-15 | 堂場瞬一
千葉県野田市の江戸川沿いで7歳の女児の遺体が発見された。東日新聞柏支局の定年控えたベテラン記者・松島慶太は早速取材に乗り出す。そのニュースを聞いた埼玉支局の古山孝弘は、埼玉でも4年前に8歳の女児の行方不明事件があったことを思い出す。調べてみると、その現場は吉川市で、今回の野田の事件と江戸川を挟んですぐ近くだった。古山と松島が協力して両県の類似の事件を洗うと、江戸川近くで33年間に7件の女児殺害もしくは行方不明事件が起きていたことが判明、しかもそのすべてが未解決。不審に思ったふたりは過去の事件を取材するが、両県警はなぜか妙に冷たい。さらには取材への圧力ともとれる言葉まで飛び出してくる。古山は本社へ転勤間近、松島は手術後の仕事に復帰したばかりで、思い通りには動けないなかで真相を探っていく。やがて兎に角記事にして投げかけて、古山は東京へ転勤。ここまでが上巻。下巻は自殺した野田警察署長の手紙と、圧力をかけられ辞めた、元警察官僚の女性覆面作家の証言、そして、ついに現れた巨大なる黒幕・・・・。新鋭とベテラン、ふたりの新聞記者の矜持は、最悪の殺人事件の真相を暴ける闇に葬られた迷宮入り事件を、記者魂溢れるふたりが掘り返していくサスペンス。なぜ捜査の矛先が鈍ったのか。なぜ取材に圧力がかかるのか。背後にあるものに忖度することなく突き進むベテランと新鋭のふたりが、血の通った人間としてリアルに描かれ、スリリングな事件の行方がミステリーとして展開される。が、話はそこにとどまらない。物語は今の新聞社に内在する問題にも深く切り込んでいく。
「新聞が斜陽産業と言われ久しい。90年代にインターネットが普及し始めてから、紙のメディアの需要減る一方だ。・・・部数の低下は広告収入の低下に繋がり財政的に追い込まれている。・・・ニュースなんかネットで読めばいいと多くの人が言うが、そのニュースのほとんどが新聞やテレビの提供なのだ。」(上P216)「新聞記者は、取材対象を追いかけ、ただネタをもらうだけの存在だと揶揄する人がいる。取材対象に完全にコントロールされ、正義感も何もないのだろう、と実際、権力がマスコミをコントロールするのは珍しくも難しくもない。」(下P159)「今更、新聞の信頼を取り戻すのは難しいかもしれない。俺は、一番の原因は、権力に対する真っ当な批判がなくなったことじゃないかと思うんです」(P///)
「惰性で新聞記者の仕事をするな。・・・シビアな取材をして、社会悪を抉り出す仕事を続けていかないと、本当に新聞は駄目になる。(下P281)
自らも新聞記者だった著者による、今の新聞メディアへの警鐘であり、批判であり、著者の思いである。物語が組織の中から協力者や内部告発者が現れる展開は、良心と矜持が残っている人を特に描きたかった著者の思いからだろう。
長編だが一気に面白く読めた。
2021年4月角川春樹事務所刊


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