ワニの涙とは「偽りの涙、特に偽善者が悲報に接して噓泣きするような、不誠実な感情表現のことを指す言葉である。ワニが獲物を食べながらそら涙を流すという古くからの伝承に由来とある。」「息子を殺したのは、あの子よ」「馬鹿を言うな。俺たちは家族じゃないか」三代続く老舗の土岐屋吉平陶磁器店を営む久野貞彦と暁美。その跡取り息子康平が殺される。犯人は妻・想代子の元交際相手。裁判が結審した後に犯人は想代子にそそのかされたと発言する。嫁の想代子は、殺された息子からのDVに苦しみ殺人を依頼したのか。嫁を信じたい舅、疑念にかられる姑。何か悪いことが起こるたびに疑念が湧き起こる。嫁は関与しているのか、いないのか疑念は膨らみ、次第に家族は追い詰められていく。読み手にも疑念を抱かせつつ、貞彦と暁美の心情が揺れ動く。心理描写がすごく面白かった。一度疑いの目でみると全ての言動が怪しくみえてしまう作者の術中に嵌りました。
2022年9月文藝春秋刊
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