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私はこんな数学書を読んできた 2

2021-11-09 13:35:15 | 趣味人的レビュー

私がこの10年ほどでほぼ通読した数学書11冊を紹介する記事の続き。1では数学科1、2年生向けの本を挙げたので、この2ではどちからといえば数学科3年生~を対象にした本を。
なお1と同様、書名には書評サイト「本が好き」に投稿したレビューへのリンクを貼っておく。

 

『常微分方程式』(ポントリャーギン、共立出版)

著者であるポントリャーギンは盲目ながら、位相群や常微分方程式の分野で優れた業績を上げた数学者であり、優れた教科書を執筆したことでも知られる。この『常微分方程式』は『連続群論』とともに彼の代表作で、常微分方程式論の入門的教科書として世界的名著である。
「本が好き」のレビューにも書いたが、全体の流れがゆったりとして雄大というか、日本人が書いた数学書とはやはり雰囲気が異なる。もちろん、だからといって記述が大雑把などということはない。むしろ特に前半は説明が丁寧すぎるほど丁寧で、普通なら「同様にして」とか「明らかに」で済ませてしまうようなところも手を抜かず、途中過程を含めてちゃんと見せてくれる(が、後になるに従ってそうではなくなるので、読み手が自分で埋めていかなければならなくなる)。
ただ、この本はあくまで常微分方程式の理論を学ぶための本であり、読んでも常微分方程式がスラスラ解けるようにはならない。常微分方程式の解き方をマスターしたい人は別の本に当たるべきである。


『トポロジー』(田村一郎、岩波書店)

(コ)ホモロジー群や基本群の基礎がコンパクトにまとまった、昔から定評のある代数的位相幾何学(代数的トポロジー)の入門的教科書/参考書。この本では、(コ)ホモロジー群はマイヤー-ビートリスの完全系列、基本群はファン・カンペンの定理を核にして、そこに帰着させる方針で書かれているため、読んでいてとても見通しがいい。前提となる知識は第1章にまとめられているが、線形代数、群論、位相空間論の基本的な事項が分かっていれば十分読める。
その反面、同種の本には取り上げられているのに、この本には盛り込まれていない事柄もあるようだが、それは別途、他の本を読んで補えばいいだろう。
岩波全書の1冊として刊行されていたが、今はオンデマンドの形になり、値段も高くなってしまった。中古市場でも手に入れることはできるが、やはり以前、私が買った時のように安く手に入れるのは難しそうだ。だが、それだけのコストをかけても手元に置いておく価値は十分にある。


『多様体』(村上信吾、共立出版)

田村の『トポロジー』に出てくる多様体が微分可能性を考慮しないのに対して、この『多様体』で扱うのは可微分多様体である。
多様体論については数多くの本がある中、よく参考文献に名前の挙がる、昔から評価の高い本として、松島与三の『多様体入門』(裳華房)、この村上の『多様体』、服部晶夫の『多様体』(岩波書店)の3冊がある。また最近では松本幸夫の『多様体の基礎』(東京大学出版会)などもよく読まれているようだ。多様体論にどの本を読むか正直ずいぶん迷ったが、結局、学生の頃から気になっていた村上の『多様体』に決めた。
多様体論は現代数学の重要な位置を占めるもので、さまざまな切り口があるが、この本はどちらかというと微分幾何学的な立場から書かれている。初版が1969年なので、一部は内容的に古いとも言われているようだが、この本はそれを補って余りある魅力があると思う。特筆すべきは付録で、村上は「内容が入門書としては少し専門的と思われ、叙述も調子を変えて書いてある」と述べているが、この付録こそこの本の最も面白いところがギュッと詰まっていて、本文はむしろ付録を読めるようになるための準備とすら思えるほどだ。


『連続群論入門』(山内恭彦・杉浦光夫、培風館)

培風館〈新数学シリーズ〉の1冊だが、本来このシリーズが大学1、2年生レベルの数学を対象としている中にあって、この『連続群論入門』は例えば第Ⅱ章の内容が大学院生向けの講義に使われるなど、かなり異質の存在だ。が、刊行から既に60年以上経った今も、リー群、リー環について日本語で書かれた代表的な入門書であり続ける名著である。
「本が好き」のレビューにも書いたように、内容は一流だが、とにかく誤りが多い(ある定理には証明に根本的な間違いがある)。数学書には誤りが付きものとはいえ、ちょっとヒドすぎる。私にはマトモに校訂作業がなされないまま出版してしまったように見える。2010年には内容を改訂した新装版が出たが、それでもまだ修正されないままの誤りが数多く残っているようだ。
〈新数学シリーズ〉はもう刊行されていないし、この本は『ルベグ積分入門』のように復刊もされていないので、中古市場で買うしかない。可能なら新装版を入手すべきだが、手に入るのはほとんど旧版なので、読むなら「誤りを見つけてそれを直すのも勉強のうち」と割り切って読むべし。


『加群十話』(堀田良之、朝倉書店)

加群をネタに、全10章(十話)で高校レベルから大学院レベルまで学べる、朝倉書店の〈すうがくぶっくす〉の1冊。〈すうがくぶっくす〉は数学書でありながら「寝転んでも読めて、1、2カ月もすればわかったような感じがしてくる本」というコンセプトで企画されたシリーズだが、もちろんそんな言葉を真に受けてはいけない。ちゃんと読まなきゃ分からない、ということは言うまでもない。
とはいえ、この本はこれをメインにがっつり取り組むというより、少し寄り道してこれまで学んだことを再確認したり(例えば行列の標準化)、これまでとは違う角度から知識を補強したり(例えば微分方程式を加群として捉えて解く)と、デザートのように読む本だと思う(実際、私はこれを読んで村上の『多様体』の微分形式についての記述が理解しやすくなった)。


『ガロア理論入門』(エミール・アルティン、ちくま学芸文庫)

ガロア理論は、大学の数学科学部生の代数学専攻が卒業までに習得することを目標とする、大きなテーマだが、アルティンの『ガロア理論入門』はそのガロア理論を最小限の知識だけで手軽に学ぶことができる。
ガロア理論に至るにはいくつかのルートがあって、一般的には群→環→体と進んでいくルートを採ることが多いようだが、この本は読むのに必要な知識は線形代数学だけ。つまり大学1年で一気にガロア理論まで到達することができる本なのだ。
ある数学関係のYouTubeチャンネルで聴いたところでは、アルティンがガロア理論の本質は線形代数だと見抜いてから、そういう方向からのガロア理論の解説が一気に増えたのだとか。その嚆矢となったのが、この本だというわけ。
比較的薄い本なので、線形代数学を学んだら次にこれに当たってみるのもいいかもしれない。こういう本を読むと線形代数の威力が実感できるだろう。


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