仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「おこう紅絵暦」 高橋克彦

2006-07-02 11:00:47 | 讀書録(ミステリ)
「おこう紅絵暦」 高橋克彦 

お薦め度:☆☆☆☆
2006年6月8日讀了


一讀して、おこうとその夫・仙波一之進には記憶があつた。
以前に讀んだ本の登場人物であることは間違ひないのだが、はて、どの本だつたか。
「だましゑ歌麿」だつたかな?

仙波一之進は同心だつたと思ふのだが、この作品では筆頭與力に昇進してゐる。
以前の事件での手柄が認められたのだらう。
それでも、實直な仙波一之進、付け屆けを受け取らないので、大きな屋敷の維持や供廻りの者の雇傭などで、日々の暮し向きは樂ではなささうだ。
さうした日常の事柄を引き受けてゐるのが妻のおこうで、元柳橋の藝者だつた彼女の才覺でなんとか切り盛りしてゐるらしい。

さて、この作品の主人公はそのおこうである。
彼女の世間知と才覺で、事件の謎が解き明かされてゆく。
12篇からなる連作短篇集で、それぞれの事件は獨立してゐる。
しかし、そのそれぞれに共通してゐるのは、謎解きの面白さと、おこうのやさしい人柄である。
讀んでゐて暖かい氣持ちになれるのは、ひとへにおこうの人柄のお蔭だらう。

一之進の父、隱居の左門も味はひのあるキャラクターだ。
彼のおこうへのまなざしはあくまでも暖かい。
彼とおこうの關係は、嫁と舅の理想のカタチだと思ふ。

そんな左門が中心となる話「迷ひ道」は、秀逸。
左門のかつての同僚・似内(にたない)の乞食同然の姿に唖然とする左門であつたが・・・
年を取つて、自らの存在意義に迷ふ老武士の心境が見事に描かれてゐる。
かういふ話にはつい泣かされてしまふ。


2006年6月8日讀了



おこう紅絵暦

文藝春秋

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