仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「風の陣 立志篇」 高橋克彦

2006-05-08 22:12:25 | 讀書録(一般)
「風の陣 立志篇」 高橋克彦

お薦め度:☆☆☆☆
2006年5月5日読了


高橋克彦といふと、「寫樂殺人事件」に代表される浮世繪ミステリー系統をまづ思ひ出す。
次に、「惣門谷」に代表される傳奇ロマン。
實は私は「炎立つ」すら讀んだことがないので、此の人の歴史ものを讀むのはこれが初めてなのである。

恐る恐る讀み始めて、あつといふ間に虜になつてしまつた。

時代は奈良時代の後半。
主人公は、蝦夷でありながら朝廷に武人として仕へる丸子嶋足と、東北地方で蝦夷をまとめる物部の嫡男・物部天鈴。
時あたかも東北地方で金が發見され朝廷に獻上された頃。
これを境にして朝廷の東北經營への觸手が伸び始める。

朝廷の支配下から脱却することを目指して、天鈴は嶋足の出世を畫策する。
嶋足が陸奧守となれば、陸奧は蝦夷による蝦夷のための生活が出來る。

「橘奈良麻呂の變」に關はり、手柄を立てることで目標を達成しやうとする二人。
この二人と、嶋足の上司であの有名な田村麻呂の父・坂上苅田麻呂との關はり方が面白い。
誠實ながら己の生きざまにこだわる嶋足。
嶋足のさういふ不器用なところを高く買つてゐる苅田麻呂。
目的のためには手段を選ばぬ戰略家の天鈴だが、嶋足の人間性に惹かれてしまふ。
彼らの活躍を讀んでゐると、自分の友人たちの活躍を見てゐるやうで、ついつい感情移入してしまふのだ。

中學だつたか、歴史の教科書に「橘奈良麻呂の變」が出てゐたが、その時はその意味すらわからなかつた。
この作品を讀むと、當時の政治の力學のやうなものがよくわかる。


2006年5月5日讀了


風の陣 立志篇

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