仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

『魔王』 伊坂 幸太郎

2009-01-29 00:05:43 | 讀書録(一般)
『魔王』 伊坂 幸太郎

お薦め度 : ☆☆☆
2009年1月28日讀了


「魔王」と「呼吸」の2篇。
「呼吸」は「魔王」の續篇と云つてもよいのかな?
獨立した作品としては成立ちさうにないので、さう云つてもよいのだらう。

「魔王」は安藤といふ青年が主人公。
彼は、自分の思ひどほりのことを他人に話させることが出來る。
彼はその能力を「腹話術」と稱して、それをカリスマ性をもつた政治家・犬養に試みる。
犬養は、政治家には珍しく曖昧なことを云はず、自らの責任を明確にする政治家で、それゆゑに若者受けしてゐる。
安藤はその状況をファッショで危ないと感じてゐる。
安藤は自分のちからで、犬養の口から「私を信じるな」と云はせることに成功するが、その直後に死んでしまふ。
作者は、犬養のシンパであるバーのマスターの超能力の所爲だと暗示してゐる。

なんだか、かう書くとSFめいてゐるが、さういふ超能力や政治的内容がテーマではない。
おそらくは、タイトルにあるやうに集團をどこかに連れ去つて行くやうな「状況」そのものを「魔王」として表現したかつたのではないだらうか。

「呼吸」では「魔王」の5年後の状況が描かれてゐて、「魔王」で登場した政治家・犬養は首相になつてゐる。
主人公は、「魔王」の主人公・安藤青年の弟・潤也とその妻・詩織で、詩織の視點からの一人稱で描かれてゐる。

潤也もまた、奇妙なちからを持つてゐる。
それは、十分の一以下の確率であれば、起こる事象を當てることが出來るといふもの。
最初は、いつもジャンケンに勝つといふことから、そのちからの存在が明らかになるが、やがてそれが竸馬に發展する。
まあ、私もそんな能力があれば、きつとさうするけれど。
ともあれ、潤也はそのちからを使つて、1億もの金を祕かに貯金してゐることが判明する。
そして、その金は、どうやら犬養首相の作りだした「状況」に抗ふことに使はれるらしいことが暗示されて、そのまま物語は終るのである。

ざつとあらすぢを書いてみたが、じつはこの作品のあらすぢを書いても、あまり意味はないやうな氣がしてゐる。
ストーリーだけで云へば、何ともとりとめのない話だ。
正直云つて、これでは肩透かしを喰らつたやうなものだ。
このあときちんと結末をつけてくれないと困る。
そんな氣にさせる作品だ。
消化不良なので星は3つどまり。
續篇および完結篇に期待しよう。



魔王 (講談社文庫)
伊坂 幸太郎
講談社

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