仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「模倣犯」(全5卷) 宮部みゆき

2006-01-31 21:40:46 | 讀書録(ミステリ)
お薦め度:☆☆☆☆+α


宮部みゆきの「模倣犯」を讀んだ。
以前から氣になつてゐたのだが、私は文庫になるまでは手を出さないと決めてゐる。
通勤途上やベッドの中では、文庫や新書版でないと讀み難くて仕方ないのだ。

宮部みゆきの最高傑作との評價もある本書。
期待に胸を膨らませて讀みはじめた。
實は不安も少し。
といふのも、以前、同じやうに「宮部みゆきの最高傑作」と云はれた
『理由』
は、私にはとてもさうは思へないものだつたからだ。

さて、では本書はどうか?
この作品は「推理小説」ではない。
廣い意味では「ミステリ」の範疇に入るかもしれないが、
むしろ、我々がいま生きてゐるこの日本の社會の病巣を描き出した、といふ觀點からは、
單なる「ミステリ」の枠を遙かに超えてゐると云つて良い。
かう書いてしまふと、なにやら堅苦しくて讀み難いものを想像してしまふかもしれないが、
そんなことは決してない。
主に通勤途上と就寢前のベッドの中で讀んだにも關はらず、10日で5册を讀み了へてしまつた。
つまり、讀んでゐて、次は?その次は?と心が逸るのだ。
それほどに本書の描き出す世界には吸引力がある。

ここでは、ストーリーについての詳細は書かない。
ひとことでいへば、連續誘拐殺人事件について書かれてゐる。
被害者の家族の視點。
犯人の視點。
事件を受け止める世間の視點。

犯人が誰かは書かれてゐる。
どのやうに犯罪が行なはれたかも書かれてゐる。
だから「推理小説」ではない。
しかし、犯行の動機は・・・・
題名が『模倣犯』であるといふ意味は、最後にわかる。

私はこの作品のラストシーンが好きだ。
「風は、また靜かに通り過ぎていつた。」
この一文が、作者の書きたかつたことを暗示してゐる。
確かに、これは「宮部みゆき」の最高傑作である。



「模倣犯」(一) 宮部みゆき
2006年1月23日讀了
模倣犯1

新潮社

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お薦め度:☆☆☆☆+α


「模倣犯」(二) 宮部みゆき
2006年1月24日讀了
模倣犯2

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お薦め度:☆☆☆☆+α


「模倣犯」(三) 宮部みゆき
2006年1月27日讀了
模倣犯3

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お薦め度:☆☆☆☆+α


「模倣犯」(四) 宮部みゆき
2006年1月29日讀了
模倣犯〈4〉

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お薦め度:☆☆☆☆+α


「模倣犯」(五) 宮部みゆき
2006年1月29日讀了
模倣犯〈5〉

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お薦め度:☆☆☆☆+α

コメント (31)    この記事についてブログを書く
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31 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
最高傑作ですか! (呑む気父さん)
2006-01-31 23:25:20
そうですか、最高傑作ですか?

私は宮部みゆきの「江戸物」が大好きです。でも現代物はイマイチ。というかどちらかと言うと嫌いです。仙丈さんが仰るように「理由」は、いつ面白くなるかと期待しながら読み続けましたが、結局最後までつまらなかった。この話のどこが傑作なのか?未だに理解できません。

ですから「模倣犯」も手を出そうか迷っていました。でも仙丈さんの推薦により(?)読んでみたくなりましたよ。

ありがとうございます。

返信する
追伸 (呑む気父さん)
2006-01-31 23:31:11
映画の「模倣犯」はつまらなかったですねぇ。中居君が気味悪い味を出していたけれど、あれは駄作だと思います。確か新聞に宮部みゆきのコメントが出ていたけれど、奥歯に物が挟まったような言い方だった。カッスラーみたに映画会社に訴訟をおこせばいいのにと思ったものです。

観ましたか?
返信する
傑作だと思ひます (仙丈)
2006-01-31 23:49:32
呑む氣父さん



コメントありがたうございます。

「理由」は何故あれほど評價が良いのか、私にはさつぱりわかりませんでした。

端的に云つて實驗作、それも失敗したと思つてゐます。



大ざつぱな言ひ方になりますが、「模倣犯」はひとつの事件を複數の視點から描いてゐます。

文庫で云へば、1卷で事件の大筋は被害者の家族の視點から語られてゐます。

第2部ではそれを犯人の視點から描き、そして第3部では、1部2部を踏へて、いはゆる世間の視點で統合してゐます。

なかなか一筋繩ではゆきません。



映畫は觀てゐませんが、觀た人のブログを覗くと、酷評されてゐるやうですね。

原作はいはば犯罪心理が主人公ですから、映像化することでこぼれ落ちる部分が多すぎると思ひます。

よほど巧く料理しないと・・・



返信する
阪神と僕移転の御連絡 (しん)
2006-02-01 22:06:04
大変、ご無沙汰致しております。

阪神と僕@しんです。



2月1日キャンプイン!!

今年は日本一を信じて挑戦者として

阪神タイガースを応援していこうと思っております。



初心に戻るという事で阪神と僕を

ブログ人元のスペースに戻したいと思っております。

阪神と僕

http://shin.blogzine.jp/



今年・・おはつのコメントが

移転連絡となります事深く、お詫び申し上げます。

link等を頂いております場合はお手数をお掛け致しますが

お手透き時に訂正頂ければうれしく思っております。



今年も阪神の試合が見れる時期が近づいて参りました。

o(^^o)(o^^)o わくわくどきどはらはら・・

本当に楽しみです。

今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

追伸、皆様のサイト巡回の為に

   コピペであります事深く申し上げますm(_ _)m
返信する
ありがたうございます (仙丈)
2006-02-01 22:28:21
しんさん



轉居のご聯絡ありがたうございました。

さつそくRSSリーダーに登録させて頂きました。

けふからキャンプインですね。

今年もぐゎんばつてタイガースの應援をいたしませう!



返信する
同感です (りら)
2006-02-03 16:19:33
この作品を読むまでは「火車」が一番好きで、

宮部みゆきの最高傑作だと思っていました。

「模倣犯」、文庫では5冊ですか!

これだけ長いにもかかわらず、

冗長な部分がまったく感じられないのはすごいです。それに、陰惨な事件を描きながら、

おどろおどろしいところがない。

実は、宮部みゆきの文体が

「すっごく好き」というわけではないのですが、

こういうところはさすがだと思います。
返信する
好きな作家 (仙丈)
2006-02-03 22:57:04
りらさん



宮部みゆきは私の好きな作家のひとりです。

「時代もの」も好きですし、ミステリーも好きです。

いまのところ、『理由』以外は、すべて讀んでゐて惹きこまれました。

一番好きな作品はと聞かれると、さんざん迷つた揚げ句、『蒲生邸事件』を擧げたいと思ひます。

「二・二六事件」を扱つた作品です。



返信する
好きな作家 (みほ)
2006-02-05 07:46:59
私も宮部作品は、好きなジャンルが分かれるようなかがします。

長編では、なんと言っても「ぼんくら」「日暮し」が

一番好きです。

もちろんミステリーでは「火車」かしら・・・

これからも読者をわくわくさせる作品を期待したいですね。
返信する
ぼんくら (仙丈)
2006-02-05 08:16:53
みほさん



「ぼんくら」もよいですね~

やはり、宮部みゆきは人情を描かせたら最高です。

それも、たとへば淺田次郎のやうな激しい感動?といふよりも、じんはりとした感動とでもいひますか、ほんのりとした手觸りが素晴らしいと思ひます。

あ、ちなみに淺田次郎の激しい感動も大好きです!



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江戸物なら・・ (みほ)
2006-02-06 23:47:07
早速のコメントありがとうございます。まだブログ1年生なので、至らない点陳謝致します。

これからもよい本をたくさんご紹介くださいね。

ちなみに、古いですが、都筑道夫の「なめくじ長屋」シリーズは個人的におすすめです。もう絶版かもしれません。

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