仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

『夜は短し歩けよ乙女』 森見 登美彦

2010-12-29 01:25:08 | 讀書録(一般)
『夜は短し歩けよ乙女』 森見 登美彦

お薦め度 : ☆☆☆☆
2010年12月21日讀了


なんて面白い小説なんだらう!
文庫本の裏表紙には、「キュートでポップな戀愛ファンタジーの傑作!」と書かれてゐる。
でも、これ、何か違ふと思ふのだ。
ファンタジーと横文字にするよりも、幻想小説と云つたはうがピッタリする。
3階建の叡電の如きものが先斗町を進んでくる情景など、まさに幻想の世界だ。
先斗町の狹い路地に電車を走らすなんて、なんて大膽な!
單なる青春ラブコメディーかと思つて讀んでゐた私は、このシーンで打ちのめされた。
これ以降は、人が浮遊しようが、古本市の天幕書店の奧に魔窟が存在しようが、龍卷が鯉を吸上げようが、一向に驚かなくなつた。

登場人物はみんな一癖も二癖もある連中で、それぞれに魅力的だ。
ヒロインの「黒髮の乙女」の、大學生とは思へぬほどの世俗を超越した純粹さ。
主人公の「私」の、これまた大學生とは思へぬほどの一途なまでのウブさ。
そして脇を固める、あまりにも怪しげかつ破天荒な人々。
「李白」さんに至つては、もはや人間とは思へない。
人間とは思へないと云へば、古本の神樣まで登場した。
もう何でもアリなのである。

こんなオドロオドロしくも爽快な、青春ラブコメ風幻想小説、もしくは幻想小説風青春ラブコメディーにはこれまでお目にかかつたことがない。
かくも荒唐無稽な小説が成立つのは、舞臺が千年の魔都・京都だからではないかと思ふ。
京都なら何が起つても不思議はない。
そんな氣にさせる小説である。

この作者の作品は、以前『太陽の塔』を讀んで以來だが、この作品と『太陽の塔』の間には大きな谷間がある。
作風もさることながら、作品世界そのものが大きく擴がり、豐かになつた。
作者にとつても、この作品は飛躍的な轉換點になつたのではないだらうか。
森見登美彦のこれからが樂しみだ。





夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
森見 登美彦
角川グループパブリッシング




太陽の塔 (新潮文庫)
森見 登美彦
新潮社




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