ばれんたいんの奇跡

ばんあれんたい、ではない。
ばれんたいん、である。

昔むかし、バレンタインといふ聖人が貧しい人々にチョコレートを配付したのが始まりとされてゐるが定かではない。
（といふか、大嘘である）

なにはともあれ、この日は日本人男性の多くが落ち着かない日であることは間違ひない。
かくいふ私ですら、會社にいくときはどきどきしてゐる。
昨年はメンバーがひとり、業者のかたがひとりチョコレートをくれた。
今年は先日その業者のかたが退職されたので、貰へる可能性が半減してゐる。

もしメンバーの女性がくれるとしたら、くれるタイミングは朝一番かひる休み明けだらう。

朝一番。
その女性が入つて來たが何のアクションもない。
ひる休み明け。
食事から歸つて來たが、机の上にはなんにもない・・・
ああ、今年は貰へないのであつたことよ・・・

仕事がひと段落してみなに挨拶をして歸つた。
おそらく、背中には哀愁が漂ふてゐたことだらう。
エレベータホールへの扉をあけて、オフィスから出やうとしたら、後ろから聲をかけられた。

「みんながゐないタイミングでお渡ししやうと思つてゐたのですが・・・」
とのこと。
をを、神はゐたのか！
今年もチョコをゲットして喜んだ、４４歳、中間管理職なのであつた。