満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

木村文彦のアルバム『キリーク』の評判がとてもいい

2012-05-24 | 新規投稿
  




木村文彦のアルバム『キリーク』の評判がとてもいい。
音楽誌は勿論、ウェブサイトでのいくつかの批評でも、いかにこのアルバムが驚きの目を持って迎えられているかが解る内容に溢れている。行川和彦氏及び北里義之氏のサイトでは長文の批評文が掲載された。

多くの批評の中で、富樫雅彦、豊住芳三郎、ミルフォードグレイブス、ハンベニンク等の固有名詞がその比較対象として登場している。名だたる即興演奏家達が批評に引用される事に違和感はないし、名誉な事でもあろう。そこにジェイミーミュアーや仙波清彦、あるいは外山明といった素晴らしい演奏者達の名前も加えて、批評される事にも誘惑される思いである。しかし、私は昨日、たまたま木村氏のブログを見て、彼がレヴォンヘルムが好きだったという事を知るに及び、今更ながらに納得するのは、そのスィング&グルーヴ且つ歌心と言った木村ミュージックの核心であった。私にとって木村文彦は一人の歌手である。それもノリノリのグルーヴ感を持った、ソウルフルなシンガーであろうか。木村氏に顕著な濃厚なドライブ感覚はドラマーとしての基礎訓練による堅固な安定感の賜物にも見えるし、関西特有のファンキー資質と見てもあながち、誤りでない気もする。即興演奏とは木村文彦の全体ではなくむしろ部分である。その事を私は強く感じ、多くの人に彼の演奏を聴いていただきたいと願っている。

2012.5.24



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『満月に聴く音楽』の再発売のお知らせです

2012-05-08 | 新規投稿
 

2006年に発行した拙署『満月に聴く音楽』を大阪梅田のMARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店の5F(梅田LOFTの隣です)及び、amazonにて再び、販売いたします。出版社に在庫がないので、在庫を実家に抱えた私が自ら、委託販売させていただいたものです。ご興味ありましたら、ぜひ買ってみてください。486ページで1050円です! よろしくお願い致します!!  
   
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Robert Glasper Experiment     『Black Radio』

2012-05-01 | 新規投稿


以前、タワーレコードで‘ハービーハンコックの再来’というコピーを目にし、試聴したのが、ジャズユニットであるロバート・グラスパー・トリオだったが、そのアタックの弱いピアノに‘これのどこがハービーハンコックなのかなー’とパスした記憶がある。
ロバート・グラスパー・エクスペリメントは彼のエレクトリックユニットであるが、そのファーストアルバム『Black Radio』はシャフィーク・フセイン(sa-ra)、エリカ・バドゥという私の好きなアーティストが参加という事で衝動買い。他にレイラ・ハサウェイ、ルーペ・フィアスコ、クリセット・ミッシェル、モス・デフ、ビラルが参加した話題作である。サックスをフューチャーしたレギュラーメンバーでの演奏はインスト志向(ボコーダーやラップMCは多分に入るが)が強いので歌ものを前面に出すべく多彩なボーカリスト、MCをゲストに加える事で、正にタイトルである‘Black Radio’ を目論見、また‘売れ’を目指したのだろうと思う。洋盤の包装にI-TUNEチャート一位と書いてあるが、私はI-TUNEチャートなるものがある事も知らなかった。しかし聴いてみて何となく納得。I-podで聞き流すにぴったりなずいぶん、スタイリッシュな音作りで、気持ちいい。しかし従来のバンド志向の音ではなく、‘サウンドに凝ったnu-soul’という感じで、これはあからさまなコマーシャル路線とも受け取れる。確かに‘Black Radio’というタイトル、そして各曲の‘異なる歌’の数々からR&Bからジャズ、ソウルといったブラックミュージックの系譜、その伝統や誇りをコンパイルして表現する、そのオールブラックニュージックの表出というエリカ・バドゥの志向にも近いコンセプトが伺えるが、デビッドボウイやニルヴァーナのカバーもあるあたりに、コンセプトの一貫性に不明な点もあり(アレンジはグッドですが)、意図的な注目度狙い、話題作りというパターンを踏襲してるなと勘繰ってしまうのはひねくれ者の性だろうか。そしてアルバム全体を支配するミディアム&スローテンポなモーダル感覚は下手するとおしゃれ感覚そのままに定着してしまいそうで、全面的に絶賛まではいきません。と言いながらも何回も聴いているのは純粋に曲が良いからだろうが、このアルバムがnu soulのニューカマーの新作としてなら私の印象はベリグッドとなったのかもしれない。随分、勝手な感想だが、やはりロバート・グラスパーはピアニスト、しかもジャズをフィールドに置くアーティストなのだから、もっと音で勝負してほしいという物足りなさを感じたのだと思う。しかもそのピアノは相変わらずというか随分、モーダルですねえ。エレピを弾くような感じでアップライトに向かっている感じで、強拍が無さすぎです。良く言えば渋くキメるという感じか。

と、収録曲のそれぞれが好きになりながらも、全体的に否定的な印象も同時に持った『Black Radio』だが、その後でYOUTUBEで何気に見始めたロバート・グラスパー・エクスペリメントのレギュラーメンバーのみによる2時間以上のライブ映像に私は別の感銘を受けた。そのライブが素晴らしく、2時間ずっと見てしまったのだ。
そこでは先程来、否定的な意味で書いた‘モーダル’な感覚が充満していた。ライブの構成、進行に只ならぬゆとり、緩さ、ダウンテンポ、間合い、ゆったりとした時間進行、その自由さなど、グループの独特な性格が顕われていた。それが最高に心地よい。『Black Radio』の‘モーダル’にマイナス要素を感じた私がライブ映像での‘モーダル’には好感を持つ。どうゆう事か。ロバート・グラスパー・エクスペリメントのレギュラーメンバーによるライブ映像から私が想起したのはマイルスデイビスの80年代の復帰直後のサウンドだった。『The Man with the Horn』(81)から『Decoy』(84)あたりまでのマイルスグループはしばしばスローテンポで間をゆっくりとった長大なナンバーを演奏していた。70年代に主にワンコードで演奏していた思いっきり間のあるスローな即興をブルースコードを基調に展開していたのが80年代のマイルスグループだったと思う。特にライブではそれらを30分にも及ぶ長い即興演奏で展開していた。それはもはやダルい印象を受けるほどのモーダルさであった。そしてあの感覚に私は濃厚なブラックミュージック臭を感じ取っていたのだ。深い快楽、酔わすようなそのスローなビートをいささかも急ぐ事なく刻んでゆく。その抑制の感覚には確かなグルーヴが存在する。ロバート・グラスパー・エクスペリメントの本質は正にマイルスデイビスグループのモーダル感覚に類似していた。
ロバート・グラスパー・エクスペリメントのメンバーの演奏に好感が持てる。同じリズムパターンを飽くことなく反復するドラム。ベースも同様で奇をてらったフレーズは皆無で、そのリフの応酬はリズムの高揚感を最上地点へともたらすものだ。各ソリストのその落ち着きぶりも特筆ものだろう。誰もスペースを埋めようともぜす、間合いを最大に生かしたような演奏を繰り広げる。わかった。これはリーダー、ロバート・グラスパーの思想なのだ。最初に私は彼のピアノプレイが‘アタックが弱い’と書いた。彼はソリストとして突出した感情表現をするのではなく、むしろグループのグルーヴに演奏を捧げているのだ。その感覚がメンバー全体に浸透し、特異な間合いの合奏、そのタメの効いたグルーヴミュージックに結実していると感じる。確かにこのサウンドはコマーシャルではない。酔いの深いアルコールミュージックとでもいうべきドラッグ性を持つ快楽主義的音楽だ。

ボーカルを全面的にフューチャーした『Black Radio』も良いが、次回はレギュラーメンバーのみでアルバムを作ってほしい。それこそ傑作になるだろう。それはおそらくエレクトリックジャズ、ジャズファンク、ソウルファンク、フュージョン等を包摂した第二の『Black Radio』になると信じる。

2012.4.30
   
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