映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

トニ -Toni- (-Toni- ジャン・ルノワール 1934年 95分 フランス)

2013年02月06日 19時02分58秒 | ジャン・ルノワール
『トニ』 (-Toni- 1934年 95分 フランス)

-----STAFF-----
監督・脚本・台詞 ジャン・ルノワール Jean Renoir
   脚本・台詞 カール・アインシュタイン Carl Einstein
      製作 フィルム・トシュルデュイ
    製作主任 ピエール・ゴー Pierre Gaut
      撮影 クロード・ルノワール Claude Renoir
      音楽 ポール・ボッツィ Paul Bozzi
      美術 マリウス・ブロキエ marius Brauquier
      原作 ジャック・ルベール
      編集 マルグリット・ウーレ=ルノワール Marguerite Houlle=Renoir
         シュザンヌ・ド・トロワ Suzanne de Troye
     助監督 ジョルジュ・ダルヌー Georges Darnoux
         アントニオ・カール Antonio Canor
   演出見習い ルキノ・ヴィスコンティ Luchino Visconti

出演
トニ..........シャルル・ブラヴェット Charle Blavette
ジョゼファ....セリア・モンタルヴァン Celia Montalvan
マリー........ジェニー・エリア Jenny Helia
アルベール....マックス・ダルバン Max Dalban
フェルナン....エドゥアール・デルモン Edouard Delmont


よそ者を嫌う、セバスチャンでもトニは気に入っていた.誰にでも色目を使うジョゼファなので、トニも嫌いではなかったのだから、もっと早く話をすればよかったのだけど.みんなが嫌うアルベールに先を越されてしまったのだった.

『ごめん、トニ、成り行きなの』
『がっかりだよ.あんなげす野郎と』
ジョゼファはトニに成り行きだと言い訳をして、トニもそれを受け入れてしまったのだけど.けれども、ジョゼファはアルベールよりも前に、ギャビーとも関係があったのだから、成り行きなんでどうでもよい事だったはず.

『家の値段を議論してるわ.ぶどう畑も、鶏も、兎と私も入ってるわ』
『あんたも家畜か?』
『美人のね』
・・・・・
『うれしくはないが、慣習通り婚約の乾杯だ』
『決まりを守るのは、重要なことだからな』
セバスチャンもアルベールがろくでなしのならず者と知りながら、習慣に従って結婚させることにしたのだけれど.予想通り、アルベールがロクに働きもせず、どうも女遊びに金を使って、破産に近い事になってしまったらしい.
関係が明かになったからと言って結婚することにした、ジョゼファとセバスチャン.成り行きに従い、習慣に従うなんて、馬鹿げたことだった.

『ねえ、ジョゼファを責めないで.隣同士じゃないの』
『一緒に結婚式をしてもいいのよ、経済的でしょ』
・・・・・
『いい結婚式だ.いい葬式と同じだな』
トニはともかくとして、ジョゼファもアルベールと一緒になるのは嫌で、トニと一緒になりたかったらしい.
経済的だからと言って、何とも馬鹿げた結婚式でした.

『カフェで誰を見たと思う?』
『金髪女を連れたアルベールだ.あれはもう寝てる.間違いない』
『ひどい話だな.それでジョゼファは?』
『2年はうまくやってたが、子供ができてからは間男してる』
『アルベールと2年は、長すぎたとも言えるな』
『背の高いやせた郵便配達だ』
ドミニクは、見たことを街中に言い触らす人間だったけれど、人の噂話は、皆、興味を持つものらしい.でも、噂話の内容なんて、馬鹿げた話に過ぎないみたい.

フェルナンドとトニ
『もう2年も恋人を待っている.お前の精神は普通じゃない』
『お前はマリーを待っている』
・・・・・
『ジョゼファと南米に行けば、別の人生と別の星が待っているんだ』
『見果てぬ夢だ、トニ』
『興奮しているから、頭を打つまで気付かない』
『目を覚まして地上に戻れ.我々の丘がある』
フェルナンドは、確かに一緒になれないマリーを待ち続けていた.それは馬鹿げたことかもしれないけれど、けれども、マリー、トニ、二人に対して、『おまえたちは幸せになる努力をしていない』と言った、努力すれば幸せになれると、言ったのです.決して、二人が別れることを、人の不幸を待っていたのではなかったはず.
マリーが好きでマリーを待ち続けていても、二人に、幸せになる努力をしろと言ったフェルナンドは、自分が馬鹿な人間であるのと分っていたのではないでしょうか.

ギャビーとトニ
『彼女が、どうしてお前と?』
『俺の愛人だもの、2年前から寝ている.アルベールより前だ』
・・・・
『俺の愛人だと言うのに.アルベールや俺に気を使えよ』
『知るか、昔は他の男を気にした.もう気にならない』
ジョゼファがアルベールを殺してしまい、関わり合いになるのが嫌なギャビーは、別れ話もせず、金だけ持って逃げていった.
成り行き任せで、誰とでも寝てしまうジョゼファだったけれど、ギャビーに捨てられて、やっと少しは、誰とでも寝てしまう自分のバカさ加減に気がついたのでしょう.そして、トニの自分を思う気持ちを、はっきりと理解したのだったけれど.

『やるべき事をするの』
ジョゼファはトニが警察に追われていることを知って、自首することにした.
ギャビーが悪いとは言え、あの時も逃げようと考えなければ、アルベールを撃ち殺すことにはならなかった.
そして、トニが誘ったとは言え、やはり逃げようとしなければ、トニも撃ち殺されることはなかったはず.

『迷わず成仏しろよ.ジョゼファは俺のものだ』
死体に拳銃を握らせながら、トニは馬鹿げたことを言っていた.
そして、ジョゼファをかばうために、彼は嘘を言い、そして逃げたのだけど、やはり逃げたりしなければ、馬鹿な男に撃ち殺されることはなかったはず.

『通るとは思わんが.隠れて見張っていろ.奴が見えたら、空に向かって撃て』
『知らせるだけで十分だからな』
『心配ない.見のがさんよ』
隠れていろと言われたのに、線路の上に立っていたこの馬鹿は、空に向かって撃って知らせろ言われたのに、トニを撃ってしまった.どうしようもない馬鹿だった.

ジョゼファとトニが、死体を荷車で山へ運ぶシーンを検閲でカットされてしまい、ジャン・ルノワールは怒ったそうです.
トニが言い出して、すぐに死体に拳銃を握らせる場面になってしまうのですが、本当は、二人にどうするか考える時間が描かれていたのですね.
『興奮しているから、頭を打つまで気付かない』
『目を覚まして地上に戻れ.我々の丘がある』
南米に逃げると言うトニに、フェルナンドはこう言ったのだけど、馬鹿なことはやめろと言ったのですね.
『迷わず成仏しろよ.ジョゼファは俺のものだ』
死体にこんなことを言っているトニは、やっとジョゼファと一緒になれると、やはり、興奮していたのでしょう.
冷静になれば、ジョゼファは自首できる人間だったのですが.

全てが、馬鹿げた出来事でした.




Sukebe




安上がりの結婚式は


葬式と同じだった




ジョゼファは、ちゃんと正しい判断が出来た


幾ら悪い奴でも、死んだことを喜んではいけない


どうしようもない馬鹿に


ジョゼファは俺のものだ、逃げて自分のものに、馬鹿なことを考えた結果は、
どうしようもない馬鹿に、馬鹿な目に合わされることになった.

南部の人 (ジャン・ルノワール)

2013年02月06日 19時02分58秒 | ジャン・ルノワール
(1945 91min)

意地悪

意地悪の第一は、デイジーちゃん (わざと人を困らせる、女の子)
『野ぶどうよ』、祖母を呼び止めたデイジーちゃん.
『食べないの』、おいしそうに野ぶどうを頬張りながら、祖母に聞いた.
蛇が怖い祖母は、草むらに入るのを躊躇っていたけれど、お腹がすいて食べ来た.
『蛇はいいの?』
『怖いけど』
夢中になってぶどうを食べる祖母に、この子は蛇をプレゼントしたのだった.
意地悪の好きな、女の子だったのかしら?
あるいは、こんな可愛らしい女の子が蛇を持って怖くないのかしら?、こう思わせて意地悪を描く、ジャン・ルノワールが意地悪なのか?

隣の農家の男 (わざと人を困らせたり、辛く当っていじめる男たち)
井戸を借りに来たサムに対して、親父は自分も辛い想いをして、苦労してきたのだから、お前も辛い思いをしろと言って、貸さなかった.
牛乳を分けてもらいに来ても、豚に与える牛乳があっても、嫌だという.更には、わざと野菜畑を荒らしに来て困らせる.
助け合う事とは無縁の、意地悪な二人だった.
けれども、大鯰がかかったとき、親父は勝手に手助けに来た.そして、俺が鯰を捕まえた、と、言いたかったらしい.

隣の農家の娘 (優しく接する女性.さりげなく助けようとする女性)
サムが尋ねて行くと、やっと隣人ができた、と、彼女は嬉しそうだった.
男二人に対して、娘は、さりげなく牛乳を渡そうとする、優しい心の女性だった.

居酒屋の親父と客を引く女
お釣りをごまかす親父と、ふられた腹いせにインチキ親父に味方した女は、意地悪な奴等.
釣りを返さないのがわざとであれば、物を投げ合って店を無茶苦茶にしてしまうのもわざとであり、女まで店を壊していた.
サムが石をぶつけてティムを助け、その後、さりげなく二人は逃げるけれど、この辺が、さりげなく助けると言ってよい良いのかしら?

子供の病気
食料のない困難な冬を、家族で助け合って乗りきった一家だったけれど.
春になり、畑を耕し終えて種まきを済ませ、やっと困難を乗り越えたと思った矢先に、子供が病気になった.
大地に平伏すノーナ、サムも耐えきれなくなって、天に向かって愚痴を言い放ったのだけど.けれども、サムの母親に惚れていたらしい、雑貨屋のハーミーの助けによって、困難を乗り越え、綿の実りを迎えることができたのだった.
『名前はウォルターにするわ』、酒場の女より優しい雌牛の助けによって、子供の病気も良くなったようだ.

結婚式と豪雨
その夜の豪雨は、収穫前の綿花をわざと狙ってきたかのように、洪水となって畑の収穫の全てを奪い去った.
洪水という自然の意地悪の前に、一度は農夫を続けることを断念しかけたサムだったのだけど.皆で協力して後片付けをしている家族、その姿の中にあるさりげない愛によって、彼は再び農夫を続ける勇気を取り戻したのだった.
『おまえは根っからの農夫だけど、おれは工場で働くことが好きだ』
都会で働く者は田舎で農夫の作った物を食べ、農夫は工場で作られた農機具で畑を耕す.自覚はなくても、いつでも皆が助け合って生きている、あるいは協力し合って生きている.その心は、一緒に暮らす家族のさりげない愛と同じものなのでしょう.

もう一度デイジーちゃん.この子の表情はいつでも素敵.
コートがなくて学校へ行けないので、お婆さんの毛布を取り上げコートを作る.コートが縫い上がって「似合うよ」これは母親、お婆さん、どちらの言葉なのでしょうか.テイジーちゃん、お婆さんの方を振り向いてから、それから母親の方を見て嬉しそうな表情.なんと言おうかしら、意地悪の反対の心を全て含んだ笑顔、こう言っておこう.

愚痴ばかり言って困らせる祖母も、洪水の後片付けを手伝った.さりげなく助け合う愛情に満ちた家族、ティムの言葉を借りれば、自然と心の暖まる家族を描いた映画でした.
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意地悪
わざと人を困らせたり、つらくあたっていじめたりすること.(大辞林)

『わざと人を困らせる』に対しては『さりげなく人を助ける』
『つらく当たる』に対しては『優しく接する』
『いじめる』を、私なりに補足すれば、
『強いものが弱いものを困らせること』であり、それに対しては、『強いものが弱いものを守ること』

ジャン・ルノワールは、辞書を引くように、自然な人の心を自然に描き上げています.