映画と自然主義 労働者は奴隷ではない.生産者でない者は、全て泥棒と思え

自身の、先入観に囚われてはならない
社会の、既成概念に囚われてはならない
周りの言うことに、惑わされてはならない

素晴らしき放浪者 (ジャン・ルノワール 1932年 84分 フランス)

2013年02月09日 15時14分29秒 | ジャン・ルノワール
『素晴らしき放浪者』 - BOUDU SAUVE DES EAUX -(1932年 84分 フランス)

監督   ジャン・ルノワール
製作   ミシェル・シモン
原作   ルネ・フォショワ
脚本   ジャン・ルノワール
撮影   マルセル・リュシアン
美術   ジャン・カスタニエ
     ユーグ・ローラン
編集   マルグリット・ウーレ=ルノワール
     シュザンヌ・ド・トロワ
音楽   ラファエル ヨハン・シュトラウス
助監督  ジャック・ベッケル
     ジョルジュ・ダルヌー

出演
     ミシェル・シモン
     シャルル・グランヴァル
     マルセル・エニア
     セヴェリーヌ・レルシンスカ
     ジャン・ダステ
     マックス・ダルバン









犬の出来事
「お巡りさん、俺の犬を知らんかね.ああ、縮れた黒い毛の犬だ」
「お前に似ている犬だな」
「逃げちまった」
「お前も早く失せたほうがいいぞ.さもないとブチ込むぞ」

このお巡りさん、浮浪者の犬のことは全く相手にしなかった.けれども、上流階級の夫人の1万フランの犬は、「大変だ」と、大勢で探すことに.更には「何か心配事でも」と、紳士が車を止め、犬がいなくなった夫人に聞いた.そして一緒に探すことにしたのだった.




少女がくれたお金
公園の中を探し回ったけれど犬は見つからず、疲れ果てたブーデュは、ベンチにもたれかかるように座り込んでいた.そこへ少女と母親がやって来た.
「これをあげなさい.不幸な人を助けるのよ」
「なぜ、金をくれる?」、お金をくれた少女にブーデュは聞いた.
「パンを買えるでしょ」







近くに止まった高級車.
ブーデュがドアを開けると、運転していた紳士は降りてきた.
小銭を探すが見つからない紳士に、「ほら、金をやる」と、ブーデュはさっき貰ったお金を差し出した.
「なんだって?、バカにするな」、紳士は怒ったけれど、
「パンでも買いな」と言って、ブーデュは去って行った.

浮浪者のブーデュを見ると皆が逃げて行く.お金をくれた親子は優しい親子だった.でも、ブーデュにしてみれば、お金をくれるよりも「どうしたの?、(何か心配事でも)」と、聞いて欲しかったのではなかろうか.
決してお金をくれた親子が悪いと言うのじゃないけれど、お金が全てではない、お金よりも優しい心の方が.....
お巡りさんはブーデュを外見で判断して、「お前に似ている犬だな」「お前も早く失せろ」と、罵声を浴びせた.浮浪者の犬は探さないけど1万フランの犬は探す、人を外見で判断して差別し、物事をお金で考える人間だった.
少女の親子は、「不幸な人を助けるのよ」とお金をくれたのだけど、やはり、汚い身なりの外見で不幸な人と判断し、お金で解決すると考えていたと言えるようだ.



本屋の旦那さん
「君の名は、青春だ」「女房には内緒だ」、そう言って苦学生に本を上げる人だった.
「なんと素晴らしい男だ.奴こそ一流の放浪者だ」、望遠鏡でブーデュを見つけると言った.

「人生はくだらん」、助けたブーデュは、もう一度溺れに行くと言う.
「この世は持ちつ持たれつだ.もう孤独ではない.君の名前は?」と、彼は優しい言葉でブーデュを止めた.
「風邪を引いた」
「当たり前よ」
「亭主のせいだぞ」
「そうだな」、言いたい放題、やりたい放題のブーデュに対して、彼は、優しく、暖かく接するのだった.



旦那さんと奥さん
「今夜の寝ぐらを探さんとな」
「ホテル代をあげたら?」.....助けられても感謝の気持ちのかけらもないブーデュを、奥さんは追い出そうとした.
「ホテルは、まっぴら」
「なぜ?」
「ホテルは、御免だ」
「行きたくないか」
「なぜ溺れるのを助けた?」、ブーデュは相変わらずの憎まれ口.
「小部屋にベットを用意しなさい」、旦那さんは、物事をお金で済ます人ではなかった.
「はいはい、ご主人様」

「あなた、エルネストに愛人がいたの知ってた?」
「結構なことだ」
「それが男の意見ね.お葬式にも行かなかったわ.心が痛まない?」
「痛むのは、喘息の発作で十分だ」
「それでも友達かしら」
「葬式に行かなくても、親友だと理解しあってた」
「変わった人ね」
「今頃分ったか」
「でも、泣いたわ」
「私が、死んだ日に」

「もう我慢ならん、今日こそ追い出すぞ」
「本気だ、救いようがない」
「遅いのよ」
「確かに!、救うなら同じ種の人間に限る」
「その方が無難ね」
「こいつはひどい.だが奴はどうなる? 」
「ほっとくの、心配しすぎよ」
「だが、やはり気にかかる.気に食わん奴だが、命を救った相手だ.孫のような気がする」
「またきれい事を.どうせ、お説教だけで追い出せないのよ」
「いや、追い出すと言ったら追い出す.明日にでも」

ブーデュは礼儀をわきまえない野蛮人、原始人だった.我慢の限度を遥かに超えていたのだが、けれども旦那さんは、今日追い出してやると言いながら、明日になってしまう.奥さんが言うように旦那さんは、結局はお説教だけで、追い出すことは出来ない人だった.
奥さんは友人の葬式に行かなかった旦那さんに文句を言った.「変わった人ね」と言う奥さんに、「今頃気がついたか」と言い返したけれど、彼は死んだ人は大事にしない人だったらしい.その代わり、「気に食わん奴だが、命を救った相手だ」と、ブーデュの事を心配する人、生きてる人は大切にする人だった.そして、
「ホテル代をあげたら?」と言う奥さんに対して、「小部屋にベットを用意しなさい」と、言ったのだが、お金で物事を解決しようとしない人、お金で物事を考えない人だった.旦那さんは、本当に良い人だったと言わなければなりません.


冒頭の寸劇は、『Boudu.』の字幕の後に、原始人を旦那さんが演じる、アンヌ=マリとの恋愛劇でした.
窓辺で笛を吹く男.
旦那さんの卑猥な愛を語る言葉と、笛の音.
屋根の上の間抜けな顔をしたネコと、笛の音.
ノートルダム寺院でしょうか、素晴らしい建物と、笛の音.
ラッパを吹く子供の絵.この子男の子?、女の子?と思った時には、鼓笛隊がやってきた.
勲章受賞の騒ぎの後は、
ラッパを吹く子供の絵、笛の音、素晴らしい建物の屋根(だけ)、さっきの素晴らしい建物だろうか?と思ったときには、店先を歩くブーデュ.
この辺りまでは、笛の音にごまかされて観せられたのか?

川縁のレストラン.バイオリンとギターが共演する美しく青きドナウ.最後までふざけた映画でした.
やはり、文明社会には野蛮人はいない方が良い.ブーデュが居なくなって、皆が元の平穏な生活に戻ったようです.

















トニ -Toni- (-Toni- ジャン・ルノワール 1934年 95分 フランス)

2013年02月06日 19時02分58秒 | ジャン・ルノワール
『トニ』 (-Toni- 1934年 95分 フランス)

-----STAFF-----
監督・脚本・台詞 ジャン・ルノワール Jean Renoir
   脚本・台詞 カール・アインシュタイン Carl Einstein
      製作 フィルム・トシュルデュイ
    製作主任 ピエール・ゴー Pierre Gaut
      撮影 クロード・ルノワール Claude Renoir
      音楽 ポール・ボッツィ Paul Bozzi
      美術 マリウス・ブロキエ marius Brauquier
      原作 ジャック・ルベール
      編集 マルグリット・ウーレ=ルノワール Marguerite Houlle=Renoir
         シュザンヌ・ド・トロワ Suzanne de Troye
     助監督 ジョルジュ・ダルヌー Georges Darnoux
         アントニオ・カール Antonio Canor
   演出見習い ルキノ・ヴィスコンティ Luchino Visconti

出演
トニ..........シャルル・ブラヴェット Charle Blavette
ジョゼファ....セリア・モンタルヴァン Celia Montalvan
マリー........ジェニー・エリア Jenny Helia
アルベール....マックス・ダルバン Max Dalban
フェルナン....エドゥアール・デルモン Edouard Delmont


よそ者を嫌う、セバスチャンでもトニは気に入っていた.誰にでも色目を使うジョゼファなので、トニも嫌いではなかったのだから、もっと早く話をすればよかったのだけど.みんなが嫌うアルベールに先を越されてしまったのだった.

『ごめん、トニ、成り行きなの』
『がっかりだよ.あんなげす野郎と』
ジョゼファはトニに成り行きだと言い訳をして、トニもそれを受け入れてしまったのだけど.けれども、ジョゼファはアルベールよりも前に、ギャビーとも関係があったのだから、成り行きなんでどうでもよい事だったはず.

『家の値段を議論してるわ.ぶどう畑も、鶏も、兎と私も入ってるわ』
『あんたも家畜か?』
『美人のね』
・・・・・
『うれしくはないが、慣習通り婚約の乾杯だ』
『決まりを守るのは、重要なことだからな』
セバスチャンもアルベールがろくでなしのならず者と知りながら、習慣に従って結婚させることにしたのだけれど.予想通り、アルベールがロクに働きもせず、どうも女遊びに金を使って、破産に近い事になってしまったらしい.
関係が明かになったからと言って結婚することにした、ジョゼファとセバスチャン.成り行きに従い、習慣に従うなんて、馬鹿げたことだった.

『ねえ、ジョゼファを責めないで.隣同士じゃないの』
『一緒に結婚式をしてもいいのよ、経済的でしょ』
・・・・・
『いい結婚式だ.いい葬式と同じだな』
トニはともかくとして、ジョゼファもアルベールと一緒になるのは嫌で、トニと一緒になりたかったらしい.
経済的だからと言って、何とも馬鹿げた結婚式でした.

『カフェで誰を見たと思う?』
『金髪女を連れたアルベールだ.あれはもう寝てる.間違いない』
『ひどい話だな.それでジョゼファは?』
『2年はうまくやってたが、子供ができてからは間男してる』
『アルベールと2年は、長すぎたとも言えるな』
『背の高いやせた郵便配達だ』
ドミニクは、見たことを街中に言い触らす人間だったけれど、人の噂話は、皆、興味を持つものらしい.でも、噂話の内容なんて、馬鹿げた話に過ぎないみたい.

フェルナンドとトニ
『もう2年も恋人を待っている.お前の精神は普通じゃない』
『お前はマリーを待っている』
・・・・・
『ジョゼファと南米に行けば、別の人生と別の星が待っているんだ』
『見果てぬ夢だ、トニ』
『興奮しているから、頭を打つまで気付かない』
『目を覚まして地上に戻れ.我々の丘がある』
フェルナンドは、確かに一緒になれないマリーを待ち続けていた.それは馬鹿げたことかもしれないけれど、けれども、マリー、トニ、二人に対して、『おまえたちは幸せになる努力をしていない』と言った、努力すれば幸せになれると、言ったのです.決して、二人が別れることを、人の不幸を待っていたのではなかったはず.
マリーが好きでマリーを待ち続けていても、二人に、幸せになる努力をしろと言ったフェルナンドは、自分が馬鹿な人間であるのと分っていたのではないでしょうか.

ギャビーとトニ
『彼女が、どうしてお前と?』
『俺の愛人だもの、2年前から寝ている.アルベールより前だ』
・・・・
『俺の愛人だと言うのに.アルベールや俺に気を使えよ』
『知るか、昔は他の男を気にした.もう気にならない』
ジョゼファがアルベールを殺してしまい、関わり合いになるのが嫌なギャビーは、別れ話もせず、金だけ持って逃げていった.
成り行き任せで、誰とでも寝てしまうジョゼファだったけれど、ギャビーに捨てられて、やっと少しは、誰とでも寝てしまう自分のバカさ加減に気がついたのでしょう.そして、トニの自分を思う気持ちを、はっきりと理解したのだったけれど.

『やるべき事をするの』
ジョゼファはトニが警察に追われていることを知って、自首することにした.
ギャビーが悪いとは言え、あの時も逃げようと考えなければ、アルベールを撃ち殺すことにはならなかった.
そして、トニが誘ったとは言え、やはり逃げようとしなければ、トニも撃ち殺されることはなかったはず.

『迷わず成仏しろよ.ジョゼファは俺のものだ』
死体に拳銃を握らせながら、トニは馬鹿げたことを言っていた.
そして、ジョゼファをかばうために、彼は嘘を言い、そして逃げたのだけど、やはり逃げたりしなければ、馬鹿な男に撃ち殺されることはなかったはず.

『通るとは思わんが.隠れて見張っていろ.奴が見えたら、空に向かって撃て』
『知らせるだけで十分だからな』
『心配ない.見のがさんよ』
隠れていろと言われたのに、線路の上に立っていたこの馬鹿は、空に向かって撃って知らせろ言われたのに、トニを撃ってしまった.どうしようもない馬鹿だった.

ジョゼファとトニが、死体を荷車で山へ運ぶシーンを検閲でカットされてしまい、ジャン・ルノワールは怒ったそうです.
トニが言い出して、すぐに死体に拳銃を握らせる場面になってしまうのですが、本当は、二人にどうするか考える時間が描かれていたのですね.
『興奮しているから、頭を打つまで気付かない』
『目を覚まして地上に戻れ.我々の丘がある』
南米に逃げると言うトニに、フェルナンドはこう言ったのだけど、馬鹿なことはやめろと言ったのですね.
『迷わず成仏しろよ.ジョゼファは俺のものだ』
死体にこんなことを言っているトニは、やっとジョゼファと一緒になれると、やはり、興奮していたのでしょう.
冷静になれば、ジョゼファは自首できる人間だったのですが.

全てが、馬鹿げた出来事でした.




Sukebe




安上がりの結婚式は


葬式と同じだった




ジョゼファは、ちゃんと正しい判断が出来た


幾ら悪い奴でも、死んだことを喜んではいけない


どうしようもない馬鹿に


ジョゼファは俺のものだ、逃げて自分のものに、馬鹿なことを考えた結果は、
どうしようもない馬鹿に、馬鹿な目に合わされることになった.

南部の人 (ジャン・ルノワール)

2013年02月06日 19時02分58秒 | ジャン・ルノワール
(1945 91min)

意地悪

意地悪の第一は、デイジーちゃん (わざと人を困らせる、女の子)
『野ぶどうよ』、祖母を呼び止めたデイジーちゃん.
『食べないの』、おいしそうに野ぶどうを頬張りながら、祖母に聞いた.
蛇が怖い祖母は、草むらに入るのを躊躇っていたけれど、お腹がすいて食べ来た.
『蛇はいいの?』
『怖いけど』
夢中になってぶどうを食べる祖母に、この子は蛇をプレゼントしたのだった.
意地悪の好きな、女の子だったのかしら?
あるいは、こんな可愛らしい女の子が蛇を持って怖くないのかしら?、こう思わせて意地悪を描く、ジャン・ルノワールが意地悪なのか?

隣の農家の男 (わざと人を困らせたり、辛く当っていじめる男たち)
井戸を借りに来たサムに対して、親父は自分も辛い想いをして、苦労してきたのだから、お前も辛い思いをしろと言って、貸さなかった.
牛乳を分けてもらいに来ても、豚に与える牛乳があっても、嫌だという.更には、わざと野菜畑を荒らしに来て困らせる.
助け合う事とは無縁の、意地悪な二人だった.
けれども、大鯰がかかったとき、親父は勝手に手助けに来た.そして、俺が鯰を捕まえた、と、言いたかったらしい.

隣の農家の娘 (優しく接する女性.さりげなく助けようとする女性)
サムが尋ねて行くと、やっと隣人ができた、と、彼女は嬉しそうだった.
男二人に対して、娘は、さりげなく牛乳を渡そうとする、優しい心の女性だった.

居酒屋の親父と客を引く女
お釣りをごまかす親父と、ふられた腹いせにインチキ親父に味方した女は、意地悪な奴等.
釣りを返さないのがわざとであれば、物を投げ合って店を無茶苦茶にしてしまうのもわざとであり、女まで店を壊していた.
サムが石をぶつけてティムを助け、その後、さりげなく二人は逃げるけれど、この辺が、さりげなく助けると言ってよい良いのかしら?

子供の病気
食料のない困難な冬を、家族で助け合って乗りきった一家だったけれど.
春になり、畑を耕し終えて種まきを済ませ、やっと困難を乗り越えたと思った矢先に、子供が病気になった.
大地に平伏すノーナ、サムも耐えきれなくなって、天に向かって愚痴を言い放ったのだけど.けれども、サムの母親に惚れていたらしい、雑貨屋のハーミーの助けによって、困難を乗り越え、綿の実りを迎えることができたのだった.
『名前はウォルターにするわ』、酒場の女より優しい雌牛の助けによって、子供の病気も良くなったようだ.

結婚式と豪雨
その夜の豪雨は、収穫前の綿花をわざと狙ってきたかのように、洪水となって畑の収穫の全てを奪い去った.
洪水という自然の意地悪の前に、一度は農夫を続けることを断念しかけたサムだったのだけど.皆で協力して後片付けをしている家族、その姿の中にあるさりげない愛によって、彼は再び農夫を続ける勇気を取り戻したのだった.
『おまえは根っからの農夫だけど、おれは工場で働くことが好きだ』
都会で働く者は田舎で農夫の作った物を食べ、農夫は工場で作られた農機具で畑を耕す.自覚はなくても、いつでも皆が助け合って生きている、あるいは協力し合って生きている.その心は、一緒に暮らす家族のさりげない愛と同じものなのでしょう.

もう一度デイジーちゃん.この子の表情はいつでも素敵.
コートがなくて学校へ行けないので、お婆さんの毛布を取り上げコートを作る.コートが縫い上がって「似合うよ」これは母親、お婆さん、どちらの言葉なのでしょうか.テイジーちゃん、お婆さんの方を振り向いてから、それから母親の方を見て嬉しそうな表情.なんと言おうかしら、意地悪の反対の心を全て含んだ笑顔、こう言っておこう.

愚痴ばかり言って困らせる祖母も、洪水の後片付けを手伝った.さりげなく助け合う愛情に満ちた家族、ティムの言葉を借りれば、自然と心の暖まる家族を描いた映画でした.
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意地悪
わざと人を困らせたり、つらくあたっていじめたりすること.(大辞林)

『わざと人を困らせる』に対しては『さりげなく人を助ける』
『つらく当たる』に対しては『優しく接する』
『いじめる』を、私なりに補足すれば、
『強いものが弱いものを困らせること』であり、それに対しては、『強いものが弱いものを守ること』

ジャン・ルノワールは、辞書を引くように、自然な人の心を自然に描き上げています.

ゲームの規則 (ジャン・ルノワール 1939年 106分 フランス)

2013年02月05日 20時14分06秒 | ジャン・ルノワール
『ゲームの規則』 (1939年 106分 フランス)

監督   ジャン・ルノワール
脚本   カール・コッホ
製作   ジャン・ルノワール
脚本   ジャン・ルノワール
撮影   ジャン・バシュレ
     ジャン=ポール・オルフェン
     ジャック・ルメール
     アラン・ルノワール
編集   マーサ・ユーレ
     マルグリット・ウーレ=ルノワール
美術   マックス・ドゥーイ
     ユージン・ローリー
衣装   ココ・シャネル
音楽   ロジェ・デゾルミエール
スチル写真 アンリ・カルティエ=ブレッソン

出演
マルセル・ダリオ
ジャン・ルノワール
ノラ・グレゴール
ローラン・トゥータン
ポーレット・デュボスト
ミラ・パレリ
オデット・タラザク
ジュリアン・カレット



友情と愛情

登場人物が沢山で、映画が進むにつれて誰が誰だか?
侯爵
書生 オクターヴ
妻 クリスチーヌ
飛行士 アンドレ
召使 リゼット
森番
密猟者 マルソー
姪の ジャッキー
愛人 ジュヌヴィエーヴ

クリスチーヌとリゼット、女同士の会話
『友情をどう考えて?』
『男とのですか、無理ですわ』
なんとなく二人は笑って、話は終わったのだった.

侯爵と愛人との別れ話
『奥さんが怒るのは私達の関係ではなく、結婚当初からのあんたの嘘よ』

リゼットの結婚
『君に来てくれと言っている』、侯爵は森番の手紙の用件を、リゼットに伝えた.
『私が奥様の許を去って?、では離婚します』、リゼットは夫の森番に対して、愛情も友情も抱いていなかった.

クリスチーヌ
『人の首に抱きつく癖がある.子供のようにな』
『パリでは、男の人に愛想よくしてはいけないの?』
彼女は、自分の国に居たときと同じように、誰にでも愛想良く接する女性だったようだ.アンドレの気持ちは、友情を愛情と誤解されたものらしいけど、さてどうなのか?.
ともかくは、彼女も、夫の侯爵も、オクターヴの希望に沿って、アンドレをコリニエールに招待することにした.

アンドレとジャッキー
アンドレがジャッキーに射撃を教えていたけれど、ウサギは逃げていった.良かった.
『君ほど優雅な不器用はいない』
『本当?』
『そうとも』
『またヘマをしたわ』
『なぜ』
『キスが楽しみよ』
『ジャッキー、僕は君を愛していない』
『知ってるわ、伯母とは時間の損よ』
『君には何も隠せん』
『あなたの悩みは、私の悩みよ』
ジャッキーはアンドレの心を正しく知っていた.だからこそ、アンドレを正しく愛していたと思えるけれど.

クリスチーヌとジュヌヴィエーヴ
ひどく面白い光景を目撃することによって、夫の浮気を知ったクリスチーヌは、愛人ジュヌヴィエーヴに会いに行き、率直に話し合うことにした.
『私は人の邪魔になる妻?』
『なぜ私の邪魔に?』
『夫とあなたの交際を邪魔したことがあって?』
『知ってたの?』
『誰でもよ』
真実を知ると、友情が生まれると言ってよいのか、二人は女同士、理解し合ったのだった.

パーティの騒動
妻と夫の愛人、二人は話し合うことによって、女同士では理解し合ったのだけど、けれども、彼女が夫を許したかどうかは、また別の問題であった.
『奥さんが怒るのは私達の関係ではなく、結婚当初からのあんたの嘘よ』
愛人ジュヌヴィエーヴは、別れ話をする侯爵にこう言ったのだけど、この言葉の通り、クリスチーヌは侯爵を許せなかったらしい.彼女はパーティを抜け出して、サン=トーバンと言う男と逢い引きを、そして、リゼットと森番とマルソーの騒動も合わせて、騒ぎは拡がって行く.
サン=トーバンと一緒にいるクリスチーヌを見つけたアンドレ.その後を、ジャッキーも追ってきた.
殴り合いの喧嘩の末、クリスチーヌを取り戻したアンドレ.クリスチーヌはアンドレに対する愛を語り、今すぐ逃げようと行ったのだが、アンドレは自分を招待してくれた侯爵から、断りなしにその妻を連れ去ることはできないと言ったのだった.
『話をしたい』とアンドレは公爵に言ったけれど、二人は殴り合いの喧嘩を始めてしまった.その間に、クリスチーヌはオクターヴと庭へ出ていった.
庭先に居る二人をリゼットが探しに来た.
『奥様とご結婚前からです.海水浴が縁でしたわ』
『誰でも知ってるわ.私に隠してたのね』
『奥様のためです』
『そうだよ』
『3年間、私は欺され続けてきたのよ』
クリスチーヌは、夫の浮気を二人に確かめ、オクターヴ、リゼットの二人も、隠していたことが明かになった.

リゼットの浮気
発砲騒ぎによって、森番もマルソーも館から去ることになった.森番もマルソーもリゼットに会えなかったらしい.館の前で出会った二人は、共にリゼットを失った事を知って、仲良くなったのだった.

温室にいるオクターヴとクリスティーヌ、クリスティーヌをリゼットと勘違いした二人.ついさっきまで、ピストルを持った森番に追いかけ回されていたマルソーは、お前のピストルで撃ってしまえと言った.マルソーは男だけを撃てと言い、森番は二人とも撃ち殺すと言った.
人間とはいいかげんで、自分勝手なものなのだけど、それはさておき、元を質せば、リゼットが愛情もないのに森番と結婚したことが、全ての問題の元であったはずだ.そして、夫に友情すらないリゼットは、問題の直中にいながら、自分から問題を解決しようとはしなかった.このことが、悲劇を、より悲劇に導いていったと言わなければならない.

オクターヴはクリスティーヌに愛情も、友情も抱いていたが、クリスティーヌも同じだったはず.男女の間にあっては、愛情も友情も区別のできない感情なのだと思うけど.
大好きな人が他人と結婚すれば誰でも辛い.その辛い感情を抑えるために、愛情を自分で押さえ込んで耐えるのだと思う.だから、クリスティーヌが侯爵と結婚することによって、その分はオクターヴのクリスティーヌに対する愛情は薄らいでいったはず、同時に友情も薄らいで行ったのだろうか.なぜ、オクターヴはクリスチーヌに侯爵に愛人がいることを、隠していたのだろう.

騒ぎの後も、クリスチーヌの元に残ることにしたリゼットは、愛情も友情もない女だったのか.クリスチーヌに愛人の存在を隠し続けてきただけでなく、夫も、マルソーも、捨て去ることにしたのだった.そして、奥様のため、とオクターヴに言った結果が、アンドレが撃ち殺されることになったのだが.

男女の間では、愛情も友情も区別のない心であり、区別しようとする方が間違っているのだと思うけれど.
それはさておき、愛情も友情も、人を欺く心ではないはず.なのに、オクターヴもリゼットも、愛人の存在をクリスチーヌに隠し続けてきた.このことは、騒動を起こす以前の問題であり、クリスチーヌにとって悲劇以外のなにものでもなかった.おせっかいとは悲劇を生みだす感情で、友情とも愛情とも無縁の感情らしい.

侯爵とアンドレは、殴り合いの結果、と言うより、クリスチーヌが居なくなったことを知って、仲直りをしてしまった.
マルソーと森番も、二人ともリゼットに会えないことを知って、仲良くなった.
愛人のジュヌヴィエーヴと、クリスチーヌは率直に話し合って仲良くなった.
互いに共通した愛情があると分ると、友情が生まれてきたらしい.
愛情があるところには、友情もあるのである.クリスチーヌは、夫の浮気を知ったとき、愛人とは話し合ったのだけど、夫を交えて、アンドレ、オクターブとも、皆で話し合えば、こんなことにはならなかったはずである.
オクターブも然り.クリスチーヌが結婚する前に、侯爵に対して、愛人と別れるか、嫌なら自分はクリスチーヌをつれてどこかへ行くと、はっきり言えば、やはり、こんな悲劇は起こらなかったのではないか.

アンドレとジャッキーの様に、互いに相手の気持ちを理解し合っていれば、愛情も友情もいつまでも続くはずである.
問題は愛情が失われたときなのだけど、アンドレとジャッキーの様に、相手に愛情があれば友情を示すことができるとすれば、クリスチーヌが夫の浮気を知ったとき、彼女はやはり第一に、夫と話し合うべきであったのだろう.彼女の愛情は失われても、夫の愛情は失われていなかったのだから、彼女の夫への友情も失われなかったとすれば、悲劇は避けられたと言えるのではないのか.
難しく考えても分らない.ともかく、友情、愛情があるならば、皆で話し合えばよいはずである.

もう一度考えてみれば、
一番いけないのは、愛情もないのに結婚したリゼット、と言うより、そんな結婚を認めている社会的な感覚、悲劇を悲劇と認識しない感覚が、問題と言うべきだと思う.
リゼットだけでなく、侯爵も、クリスチーヌも、オクターヴも、皆が悲劇を悲劇と認識していなかった.その感覚が、悲劇を導き出したと言うべきでしょう.
そして、もう一度書けば、
侯爵とアンドレは、殴り合いの結果、と言うより、クリスチーヌが居なくなったことを知って、仲直りをしてしまった.
マルソーと森番も、二人ともリゼットに会えないことを知って、仲良くなった.
愛人のジュヌヴィエーヴと、クリスチーヌは率直に話し合って仲良くなった.

考え直してみると、どの場合も、悲劇を悲劇として認識したとき、仲直りをしている.アンドレとジャッキーの場合も、『君を愛していない』とアンドレは言ったのだけど、ジャッキーは悲劇としてその言葉を受け取ったはずである.
その逆なのが、リゼット、あるいはオクターヴ.彼らは、侯爵に愛人がいることを隠していたけれど、悲劇を隠していたに過ぎないのであり、結果として、より悲惨な悲劇を、引き起こすことになったと言わなければならない.

クリスチーヌは、愛人のジュヌヴィエーヴと率直に話し合って仲良くなったけれど、夫とは話をせず、相手は誰でもよくて、他の男と逃げるつもりだった.
『私は邪魔をしない』と言う彼女の考えも、悲劇を避けようとしただけだったのかも.

もう一度書いておこう.
愛情も、友情も、人を欺く心ではない.

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『誰もが嘘をつく時代だ.薬剤師の広告、政府、ラジオ、映画、新聞、みなそうだ』
悲劇を隠す嘘が、悲劇をより悲惨な悲劇にする.
ウサギ、キジを撃ち殺す、残酷なシーン.
1939年の作品.迫り来る戦争は、皆が言っているより、遥かに悲惨な結果になると、ジャン・ルノワールは言いたかったのかもしれない.

どん底 (1936年 95分 フランス 監督 ジャン・ルノワール)

2013年02月04日 11時18分51秒 | ジャン・ルノワール
<『どん底』 (1936年 95分 フランス 監督 ジャン・ルノワール)

監督  ジャン・ルノワール
原作  マクシム・ゴーリキー
脚本  ジャン・ルノワール
    シャルル・スパーク
撮影  F・ブルガース
    ジャック・メルカントン
音楽  ジャン・ウィエネル

出演
ジャン・ギャバン
ルイ・ジューヴェ
シュジー・プリム
ジュニー・アストル
ウラジミール・ソコロフ
ジャニー・オルト


悪い女とは、キッパリと別れること

姉のワシリッサ
『私達の将来のためよ.亭主はじきに死ぬわ.その時は静かなところへ行き、良い暮らしを』と、彼女は言い寄るのだが、
『夢は寝て見るものだ』と、ペペルは、二人の将来に夢も希望もないことを、はっきりと言いきった.
『冷たいのね』と、彼女はペペルに対して言ったけれど、彼女の方こそ、夫を事故に見せかけて殺して、一緒に暮そうという、冷たい心の女だった.
『私を捨てたりしたら刑務所に送り込むわ』と、彼女は脅したけれど、それでもペペルは、勝手にしろと全く相手にしない.
『あの老いぼれを始末して.あなたならできる』
『一石二鳥だな.亭主は墓場で愛人は牢獄か』ペペルは、彼女が自分を幸せにする女でないことを、人を不幸にする女なのを見抜いていたのだった.

妹のナターシャ
姉のワシリッサは、泥棒の稼ぎを当てにして幸せになろうとする女だった.
それに対して妹のナターシャは『あんたなんか、掻っ払い、泥棒.捕まればいい』、悪事で稼いだお金では幸せになれないと、はっきりペペルに言ったのだった.そして、捕まればいいと言いながらも、留置場へ差し入れを持ってきてくれる、優しい女の子だった.ペペルは自分のことを本当に心配してくれる、幸せになれる相手を見つけたのだった.
ナターシャは、こき使われても一生懸命働く、けなげな女の子だったけれど、
『私を好きなるのは、酔っ払いか、泥棒だけ』、と絶望していた.酔っ払い、泥棒には、夢、希望はない.

どん底の木賃宿に暮す者たちは、酒を飲みながら、博打に明け暮れる者ばかり.博打で身を持ち崩した男爵であったが、どん底まで身を落としても、まだ、博打に未練があったらしい.酒によって身を持ち崩した役者もまた、酒を断ちきれないでいた.
そんな中で、恋愛の本を無心に読む娼婦の女、ナスティア.彼女は自分が娼婦であっても、純真な愛に憧れていた.彼女は、恋愛物語の本の話に涙を流し、読んだ話を自分の出来事であったように話をする.そんな彼女を、どん底の者たちは、からかい、笑ったのだけど、ルカ爺さんとナターシャだけは彼女の話に聞き入った.
娼婦の女ナスティア、彼女をもう少し書けば、
『まだ寝ないのか』街角に立つ彼女に、こう聞くと、
『今日は休みなの』と答えたのだった.今日はまだ客がいないから、まだ寝るわけには行かないと言うことなのでしょう.彼女は、どん底の暮らしをしていても、愚痴を言わない女だった.

『我れ、復活の道を歩まん』どこかの町の、大きな病院へ行けば自分の病気が治ると言うルカ爺さんの話を、アル中の役者は信じていた.
けれども、『全部嘘だ.お前の行き先は精神病院だ』、と男爵は言い放つ.
『ペテン師はあんたよ.ボロ靴を履いていても、まだ男爵気取りね』と、ナスティアは男爵に怒って言ったのだけれど、しかし、男爵の言うことを信じた役者は、みごとな演技を演じながら、本当に自殺してしまったのだった.
役者も、男爵も、過去の栄光を忘れられなかったらしい.けれども、役者は復活の希望を、どん底から抜け出す希望を抱いていたのけれど、男爵の方は、河原で昼寝をしていたときに、どん底の生活に留まるつもりだと言っていた.
ナスティアは本の作り話を、自分のことのように、本当のことのように話をする女だったけれど、彼女もきっと、どん底の生活から抜け出したかったはず.とすれば、男爵とは逆である.彼女は嘘つきのように思ったのだけど、男爵と逆とすれば、男爵が嘘だと言うことが、彼女にとって真実になる.ルカ爺さんも、ナターシャも同じなのか.

ナターシャは、姉夫婦の陰謀で無理矢理、嫌いな警部と結婚させられそうになり、一度は彼女も諦めて、酔っ払って我を忘れてしまったのだけど.けれども彼女は、ナスティアの作り話の純愛の話を信じる女の子だった.たとえ嘘の話でも、純真な愛のめぐり会いを信じている女の子だった.だからこそ、ペペルは彼女を好きになったはずである.

酒と博打と悪い女、この三つは、どん底に暮す者たちに共通した諸悪の元らしい.
男爵は、博打で身を持ち崩しても、それでも賭博をやめることが出来ない自身を自覚していたのだろうか.伯爵の優しい計らいで横領の責任追求を逃れただけで、本来なら刑務所行きのはずであり、優しい女とも縁を切って、自らどん底へ堕ちてきた.それならば、もう男爵気取りはやめれば良さそうなものである.
アル中の役者の場合は、過去の栄光を忘れることが出来ないならば、お酒をキッパリやめること.
ペペルの場合は、酒と博打は、ほどほどに、そして悪い女とはキッパリと別れること.彼はそうして、どん底の世界から抜け出していったのだった.

悪い女とは、キッパリと別れること.正しく言えば、幸せになれる相手かどうか、自分でよく考えることなのだけど.
泥棒が警察官を殴って惚れた女の取り戻し、幸せになったという、ふざけた話の映画なのですが、悪い女とはキッパリと別れないと、ナターシャのように、純真な愛のめぐり会いを信じる女の子に出会っても、一緒になることはできないのだ、と、言っているのではないでしょうか?
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男爵とペペル
男爵は、裕福な暮らしから、どん底へ堕ちてきた.
ペペルは、どん底から、抜け出そうとした.
描かれたどん底は酷すぎる.当たり前の話だけど、どん底から抜け出さなければ幸せになれない.

姉と妹
姉は、悪事の金で幸せになろうとする、人を不幸にする女.
妹は、悪事を否定して、幸せを願う女.

男爵とナスティア
男爵は、お金を横領して、嘘をついて、どん底へ堕ちてきたのだけど、どん底の暮らしでは、本当のことを言って、どん底から這い上がろうとする者の、夢、希望を奪った.
ナスティアは、娼婦をしながらも、純真な愛に対する憧れを失わなかった.嘘に過ぎない出来事に、どん底から這い上がる夢を託す女だった.