ちょっぴり腐女子な、つれづれ愚痴日記

 ぐだぐたな日々を愚痴りつつ、のんびり綴っています。気が向いたときに更新。

癒やして欲しい(小ネタ)

2020年02月16日 | 腐女子ネタ

※ タイトルに『腐女子ネタ』と入れるのが面倒になったので、小ネタに変えました。内容は相変わらずです。誰か見ているのでしょうか。(自己満足なので気にもしていませんが…

 この所、冬にもかかわらず、暖かい日が続いていたので、速水の気分はよかった。オレンジもほどほどの忙しさで、適度な緊張と平和を保っていた。

 が、一気に気温が下がり、ヘリ搬送の患者受け取りヘリポートに行ったら、体の芯まで冷えた。今日はヘリの迎えを止めよう。
 そんな気持ちになった所に、虐待されたと思われる乳児が運ばれて来た。
 ああ。やり切れない。子どもが欲しくてもできない夫婦や、病気で子宮摘出をして絶対に子どもを産むことができない女性からすれば、理解できない状態に違いない。独身の速水ですら、オレンジ2階の子どもたちに対して、誰一人として叩いたりしようと思ったことは無い。
 何とか、命は取り留めた。だが、後遺症が残らないとは保証できない。意識が戻らない乳児は二階の小児科に送った。後で警察が来るに違いない。

 疲れた。速水は部長室のモニターを見つめつつ、息をゆっくり吐いた。癒やされたい。

 思いついた速水の行動は早い。部長室を出ると、医局に行き、だらだらと休憩をしている長谷川に、
「極楽病棟に行ってくる」
と言い残して、そのまま、オレンジを後にした。

 本館12階。神経内科の病棟は別名、極楽病棟と呼ばれている。天国に一番近い場所にあるのと、血みどろの現場がほぼ無いのと、ドア・トゥ・ヘブンという特別病室があるためだった。
 速水が到着したとき、相変わらず、のんびりとした雰囲気が漂っていた。この病棟も付属病院の一角なので、決して病気が軽い人たちが入院しているわけで無い。それでも、外科のような慌ただしさやひっきりなしに鳴り響く数多くのモニターの音はほとんど聞こえない。
「救命の速水だが、田口先生は?」
 田口がらみで顔見知りが多い病棟だが、この所ご無沙汰気味だったので、一応、挨拶をかねて、ナースステーションに声を掛けた。
「…速水…先生…。田口先生ですか?」
 自分の名前の端々に入る沈黙が気になったが、それはスルーする。
「今の時間は病棟にいると、勤務表で確認したんだが、外来にいるのか?」
 不定愁訴外来が長引いている可能性も考えられた。が、
「いえ。そこにいらっしゃいますが…」
「ならいい」
 歯切れの悪い看護師を無視して、速水は勝手知ったる神経内科のナースステーションに入る。看護師たちの作業机を通り越して、奥のカンファレンスなどをする場所に行けば、広いテーブルに顔を乗せて眠っている田口がいた。
 仕事中に何、呑気に昼寝だよ。こっちは毎日毎日、消えそうな命の引き留めに苦労しているというのに。
 一発引っぱたいて起こしたいのを、ナースステーションからの視線に気づき、速水はぐっと堪えた。
 無防備に田口は寝ていた。自分の腕を枕に、どんだけお前は疲れてんだよと文句の一つも言いたくなる。ちなみに、速水は白である。ここ三日ほどオレンジに泊まり込みで、家に戻っていない。そんなわけで、田口と会えたのは昼食時のみ。しかも、直ぐ、オレンジからの呼び出しが掛かり、即行で戻った。
 要するに、田口不足だったのだ。
「あーんどん。起きろ」
 耳元で声を掛ければ、うーんという呟きが返る。ふわふわした髪がほんの僅か揺れる。もう一度、
「あーんどん。起きないとキスするぞ」
と言ってみる。
「うん。いいけ…ど」
 寝言のような返事。可愛い過ぎて、速水は田口に抱きつく。その途端、
「重い…速水。って、何してんだ!」
と田口が起きた。
「何って、仕事中に昼寝をしているお前が悪い」
「……。取りあえず、ごめん。で、何の用?」
 まだ、頭を机に載せたまま田口が尋ねる。半分、眠そうな目で。
「お前がいないから…」
「……」
 はいはいと、田口が速水の頭を撫でる。
「忙しかったんだから、お疲れ」
「ん…」
 大人しく速水は田口の手の下で、目を閉じる。撫でられているだけで、今までの疲れや悲しみや辛さが減っていく気がする。
「…今日、虐待された乳児が運ばれて…」
「うん」
「小児科に上げたけど…」
「うん。大丈夫だよ。その子は分かっているよ。お前が助けたことを」
 田口の手がぽんほんと頭を叩いた。田口が大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだろう。速水はゆっくりと田口の隣で、同じように机に頭を乗せて、目を閉じた。
 次に目を開けたとき、また、やれると思った。



コメントを投稿