複数のサイレンの音で目が覚めた。
いつもならパトカーのサイレンは少しずつ遠ざかるのだが、近付いて来ていきなり止まるから少し様子が違う。
一台、また一台とパトが集まって来ているようだ。
無線で何やら話している声も聞こえてくる。
ざわついた外の様子がいつもの雰囲気とは違っている。
「殺す」の張り紙を思い出す。
だがこのマンションが舞台ならドアの前や階段がもっと騒がしいはずだ。
拡声器が「包囲されている、大人しく出てきなさい」とか流し始めるかも知れない。
寝ぼけた顔で降りていったらいきなりフラッシュがたかれて全国中継とかも有り得るな、とか妄想し始めるともう寝てられない。
顔だけ洗って大急ぎで着替えて外に出てみた。
マンションの向かいが木津川取水所とかで横に空き地がある、そこの所に三台の赤い消防車のような車が停まっており、その横に浪速警察のパトが二台、少し離れた大正橋の袂には西警察のパトが二台。
自転車に跨った野次馬数十人ほどが遠巻きにしてそれを眺めている。
手近の野次馬の1人に聞いてみる「火事ですか?」、「さあ、なんやろね」、まるで要領を得ない。
こういうときはガキ連中の方が頼りになる。
二人づれの小学生に同じ事を聞いてみた、「誰か川で死んだんで、船で引き上げてる」とこっちはかなり詳しい。
ちょこまか動き回って情報を集めるから子供の方が全体をよく知っている。
川なら橋の上の方がいいとそっちへ向かうと橋の上は既に黒山の人だかりで大勢が川を見下ろしている。
隙間が無いので横に移動しているとポッカリと人のいない空間がある。なんと臭っさいホームレスのおっさんがいて、その両側には人がいないのだ。おっさんが横に動くと空間も移動する。
それを利用して欄干に取り付いて下を見ると行政の船二隻が赤いライトを点滅させてグルグル周回している。
既に遺体?の収容は終わって遺留物やら漂流物を収容しているようだ。
野次馬も一人減り二人減りと少なくなってきた。
いい場面は見逃したようだ。
何が起きたのか詳しいことは分からんが、大体大よそのことは分かった。
都会のひとコマの風景に過ぎんのだろう、皆それなりに好奇心を満足させて各々の時間に戻っていく。
何処かの誰かが何かの事情で川で死んだのだろう。