太鼓台文化・研究ノート ~太鼓台文化圏に生きる~

<探求テーマ>①伝統文化・太鼓台の謎を解明すること。②人口減少&超高齢者社会下での太鼓台文化の活用について考えること。

足・裏(F)‥切り込み深く、力強くリアルな表現

2019年12月02日 | 研究

この地方の古刺繍の人物の足・裏に、酷似する力強い表現が確認できる。切り込みが鋭く、リアルな足・裏を見ることができる。肥土山農村歌舞伎の鯉に跨る鬼若丸の四天・箱浦屋台の妖術較べの幕・海女の足・裏(脇町の幕、高瀬町下麻の幕、馬路の幕)に見られる。

また、四国ではないが、淡路島・南あわじ市・阿万上町だんじりの「源頼光・四天王活躍の幕」にもリアルな鋭い切り込みの足・裏を見ることができる。この上町だんじりの幕と、四国側の宇多津町・山下太鼓台幕との関連について、稿を改めて詳細説明したい。

<衣裳側>

・肥土山(鯉に跨る鬼若丸の四天)‥(E)頭髪の項で衣裳・四天の全体像は紹介済み。

<太鼓台側>

・箱浦(妖術較べの幕)‥左から、鬼童丸と召喚獣・大蛇(龍)、召喚獣・大鷲と袴垂保輔、碓井貞光(と推測) 。鬼童丸と袴垂保輔の足・裏が酷似する。(明治29年1896製)

・海女の足・裏‥上から、脇町、馬路、高瀬町下麻・矢田太鼓台の「海女の珠取り」幕

<太鼓台側・関連紹介>

・宇多津町山下(源頼光・四天王活躍の幕)‥右端は正規作品を左右反転させた画像。次の阿万上町だんじり幕と見比べていただきたい。(明治30年1897製)

・淡路島南あわじ市阿万上町(源頼光・四天王活躍の幕)

※宇多津・山下太鼓台と淡路島・阿万上町だんじりの幕同士の類似に関しては、別稿にて推理を交え詳細説明したい。

(終)

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頭髪(E)‥刺繍ではなく、黒布や黒塗り和紙などで平面仕上げとなっている

2019年12月02日 | 研究

最初に「人物刺繍・頭髪部分の黒塗りの和紙や布仕上げ」の古刺繍を見た時には、これはてっきり<髪の毛部分の刺繍が取れるかどうかして、後に黒くした和紙や布などを用い、素人的な「修復・代用」をしているのではないか>とばかり思っていた。だが、徳島県三好市・馬路太鼓台の「海女の珠取り」幕の海女を見たときであった。馬路・海女の頭髪部分は、黒和紙が部分的に無くなっていて、和紙が取れた部分には無数の縫糸の針跡がついていた。制作した当初から、和紙を丁寧に糸で押えていたものと思われる。また、この幕は各種の特徴の酷似から、松里庵・髙木工房で制作されたものと推測される。なお馬路では、後年になって、頭髪部分は新しい黒塗りの紙に貼り替えられている。

また、坂出市の北新通太鼓台で年代物の幕として現役で使用されている人物・女官(九尾の狐の玉藻前と思われるが詳細不明)では、黒塗りの厚紙を用い髪型に仕上げている。更に、観音寺市の黒渕太鼓台でかって使われていた年代物「九尾の狐」幕の玉藻前の頭髪も、晩年は修復されていたが、こちらも黒塗りの布を用いている風であった。ただ、この2地区の太鼓台・幕の制作に関しては、「松里庵・髙木工房」製であるとの確信を現時点では持てておらず、今後の松里庵製の古刺繍との比較検討を待たざるを得ない。

地歌舞伎衣裳にも同様な布貼りが確認できている。小豆島土庄町・肥土山農村歌舞伎に伝わる古衣裳(下記)の「鬼若丸」(弁慶の幼名、鯉に跨っている)にも、黒い布を用いた頭髪が確認されている。この四天も「松里庵・髙木工房」製であることが客観的に極めて高い。

これらの黒和紙貼り(布貼りを含む)部分の面積は、それぞれの作品上でかなりのウェイトを占めている。花びらや葉などの小面積の部分を布などを切り付け(切付、アップリケ)表現する刺繍作品はごく普通に見られるが、人物刺繍の主要部分である頭髪部全体を、和紙や布などを使い切付同様にしての表現は、大変珍しいのではないだろうか。他地方の刺繍作品に同様な頭髪部分の仕上がりがあるのだろうか、ぜひとも知りたいと思う。

<衣裳側>

・肥土山(鯉に跨る鬼若丸の四天)‥頭髪(稚児髷)が黒塗りの薄い布仕上げとなっている。

<太鼓台側>

・馬路(海女の珠取り幕)‥修復前の海女の頭髪部分には刺繍の針跡が無数に見えている。

・北新通(掛蒲団から改変の幕)‥掛蒲団からの改変と聞く。扇(?)を翳す女官らしきは九尾の狐の玉藻前か。鉢巻姿は和唐内だろうか。

  

・黒渕太鼓台(九尾の狐幕)‥玉藻前の頭髪が布製。

(終)

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波(D-②)‥のこぎりの歯状に、波しぶきを鋭角的に表現

2019年12月02日 | 研究

前項(D-①)で、オタマジャクシ状の波頭に覆い被さる表現について、琴平・松里庵工房との関連が深いことを画像を通して眺めた。波(波頭・波しぶき等)の採用やその表現は、刺繍作品においては主役を引き立てる場面の「余白処理」に近い作業ではないかと思う。そのような余白の部分に、工房の大きな特徴が散りばめられているのだと思う。本稿では<のこぎりの歯状の波しぶき>を熟視してみたい。オタマジャクシ状の波頭よりも、鋭角的な波しぶきに工房・松里庵の特徴が籠められているように思う。

<衣裳側>

・肥土山(鷹の四天)

・中山(鷹の羽織)‥裾部分に鋭角的な波しぶきが、上部にオタマジャクシ状の波頭が見える。

・中山(獅子牡丹の四天)

・小海(龍と須弥山の四天)

<太鼓台側>

・詫間町志々島(波千鳥の幕)

 

・馬路(海女の珠取り幕)‥海女の周囲をぐるりと波しぶきが囲い、悪龍から逃れようとする緊迫感を表現している。

・丸亀市塩屋西(源頼光主従、大江山行の幕)‥幕は古くて判読しにくいが、鋭角的な波しぶきは、洗濯する女性の下に見えている。

 

・豊浜町の席船(鷲の見返り幕)

(終)

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波(D-①)‥波頭の外側が覆い被さる

2019年12月02日 | 研究

タイトルの 「波頭(なみがしら)の外側が覆い被さる」表現とは、繰り返し湧き立つ数段のオタマジャクシ様の丸い部分(波頭)を飲み込むように、その外側から波全体を覆い被さるように刺繍されている表現を指す。北四国に限らず他地方でも、衣裳や山車の装飾幕などの古刺繍に、さまざまな波の表現は数多く見られている。しかし、本稿の末尾において<他地方の刺繍に見られる波頭表現>で数例紹介しているが、北四国の波頭の酷似として取り上げた外側が覆い被さる波頭表現とは大いに趣を異にしているのが理解いただけると思う。この覆い被さる波頭表現は、間違いなく琴平に工房の拠点があった松里庵の流儀と深い関連があると考えている。以下に取り上げた、この地方の衣裳側・太鼓台側の各刺繍作品のリズミカルな波頭に注目していただきたい。

<衣裳側>

・肥土山(鶴の打掛)


・中山(立涌文の小忌衣)

 

・中山(鷹の羽織)

・中山(鷹の裃)‥明治42年製

・大部(親子獅子の四天)

<太鼓台側>

・坂出市内濱(鯉の瀧昇り蒲団〆)

 

・脇町(海女の珠取り幕)

・下野(北条氏・家紋伝説の幕)

 

・箱浦(妖術較べの幕)‥明治29年製

 

<他地方の刺繍に見られる波頭表現>

・シーボルトが見た長崎くんち子供の衣裳(シーボルト・コレクション『シーボルト父子の見た日本 生誕200年記念』1996.2ドイツ・日本研究所発行)

 

・愛知県・有松山車まつり 唐子車(中町)水引幕

・『特別展 江戸デザインの爆発 歌舞伎衣裳』(H1.4奈良県立美術館発行)‥左2点は兵庫県・個人蔵、3番目は福島県桧枝岐村千葉之家花駒座管理、4番目は東京国立博物館蔵、5・6番目は群馬県富士見村横室地区歌舞伎保存会蔵

   

・『ぎふ地歌舞伎衣裳』(2015.8岐阜新聞社発行)‥旧・各務原市の大谷興行所有

・『特別展 伊勢の歌舞伎と千束屋-神都に伝わる伊勢人のこころ-』(皇學館大学H20.12発行)

  

・『歌舞伎の衣裳展』(1995.9福島県立美術館発行)‥愛知県藤岡町教育委員会蔵‥船首に砕ける波頭(波間の赤いのは珊瑚)

(終)

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牡丹の酷似(C-③)‥葉の先端の縫糸を交差させ、丸めてつないでいる

2019年12月02日 | 研究

牡丹の葉の先端が葉の輪郭と縫糸でつながり交差している。時にその先端部分が小さく丸く輪に表現し、一見風にそよぐ葉の風情を醸し出している。この表現は、これまで眺めてきた牡丹花の酷似(C-①、C-②)と同じように、北四国の牡丹古刺繍に見ることができる。衣裳側と太鼓台側では、どちらかと言えば、作品の厚みが肉厚とならない地歌舞伎衣裳の牡丹刺繍によく見られている。

ただ、この葉の先端の<つながり>や<小さな輪>は、他地方の地歌舞伎の古衣裳写真を注意深く眺めると、やはり同様な表現が確認できる。そのため、北四国の牡丹古刺繍の特徴とは言えないかも知れない。従って、ここでは北四国の衣裳側と太鼓台側に見られる牡丹刺繍の「葉の先端」部分の酷似に特化して眺めることとしたい。北四国の牡丹古刺繍に見られる葉先の特徴と、他地方の牡丹の葉先との関連を論及するには、余りにも比較する作品例が少ないため、現時点で<葉先の特徴を、四国側の特徴である>と論じて判断することは、残念ながら未だ適切ではないと思う。

<衣裳側>

・祇園座(獅子牡丹の打掛)‥牡丹の酷似(C-②)より再掲。多くの葉先に見られる。

・祇園座(獅子牡丹の俎帯)‥牡丹の酷似(C-②)より再掲

・祇園座(九尾の狐と雷震の四天)‥牡丹の酷似(C-②)より再掲。中央・右部分の葉先

・中山(立涌文の小忌衣)‥牡丹の酷似(C-①)より再掲。背中・中央部分の葉の先端

<太鼓台側>

・大長(獅噛と牡丹の下幕=明治初期の新居浜から伝来)‥牡丹の酷似(C-②)より再掲

・中西(獅子牡丹の幕)‥牡丹の酷似(C-②)より再掲


<他地方衣裳の葉先>

・群馬県富士見村・横室地区歌舞伎衣裳‥『特別展 江戸デザインの爆発 歌舞伎衣裳』‥牡丹の酷似(C-②)より再掲。裾部分の葉先に見られる。


・兵庫県 個人蔵の衣裳‥『特別展 江戸デザインの爆発 歌舞伎衣裳』図版28‥牡丹の酷似(C-①)より。

※下の画像をクリックすると、本ブログのこれまでの投稿内容一覧表に移動します。

(終)

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