今日ひさしぶりに弟と会った。東京に住んでいた弟が3年前に長男の会社に転職し、北関東の故郷に戻ってきたが会って話をする機会が殆どない。新聞の集金を口実に弟をランチに誘ってみた。思えば新聞店の集金というパート先の仕事をやっていなければ弟と接する機会さえなかったかもしれない。姉として弟に何かしてあげたいとは思うのだが夫は定年退職をしておりアルバイト程度の収入しかない。家庭の足しにと新聞店のパートをしているが僅かばかりの収入では弟に御馳走する身分でもない。何ヶ月かぶりに弟をファミリーレストランに呼んで話を聞くことにした。聞けば最近は澄香さんも具合が悪いようで、弟が夕食を作っているとの事である。会社で残業をした後に夕食の準備では大変だろうと思うのだが、弟は夕食を作るくらいなんでもないと言い切る。姉の前で強がっているのだろうか、それとも本当に辛いとは考えていなのだろうか。私の夫は家では何もしない。パートをしながら家事を全てやらなければ生活していけない。なかば諦めかけているので文句もでないが、弟はなにひとつ文句も言わずに家事をこなしているのだろうか。心の病というものが私には理解できない。うつ病で体が動かないと弟から聞いても、本当にそんなことがあるのだろうかと思ってしまうから、「お前が優しすぎるから澄香さんが甘えているのじゃないの?」と思いもよらない言葉がでてきてしまった。別に弟の妻を悪く言う気ではなかったが、やはり弟が苦労していると思うと他人である澄香さんには厳しくなってしまう。世間でよく言う嫁姑の関係にも似てくる。意地悪するつもりはないのに、弟の言動を色眼鏡でみてしまうのである。それでも弟は、洗濯だけは澄香が頑張ってやってくれているので助かっていると彼女をかばっている。夕食を作るだけですんでいるのはラッキーであるとさえ言いたげな様子である。本当に心の底からそんな風におもえるのだろうかと私は疑問に思ってしまうので、「へえーそういう風に考えるんだ」と独り言のようにつぶやいた。私の夫と比べると、弟の発言や行動は全く別の世界の出来事に思えてしまう。半分羨ましいと思ったのか、つい私の夫は何もしないのにと、夫に対する不満と愚痴がこぼれてしまったが、弟は気がつかないように話題を変えた。長男の経営する会社もこの時期は忙しそうで、残業や休日出勤も多いと聞かされた。年に数回しか会わない弟であるが、とりあえず元気そうであるのにほっとした。ところで澄香さんは、鬱病の薬は飲んでいるのかと聞いてみたが、どうも薬も飲んでいないようだし心療内科へ通ってもいないようである。治療費の負担も大変なのだろうが、このままでは良くないとも思い、弟に聞いてみたが気のない返事が返ってきた。とくに今のままで問題はないとでも言いたげな様子だったので、それ以上のことは言わずに話題をかえてしまった。あっという間に昼休みの時間が過ぎ、弟は会社に戻ることになった。