2.話はほぼ一年半前にさかのぼる。再任を拒否され一家が路頭に迷うところ、有り難い嫌がらせ人事のおかげで遥か遠方の地に再就職した頃だ。
遥か遠方とはいえ、これが思いがけず愉快な人生の始まりともなった。新たな勤務先は、地図の上でもはっきり距離を確認できるほど離れた関東の最東端の町にあった。新設校である。前任校では社会人や現役を退いた人が学生の大多数だった。だが、当然のことながら、この大学では高校を卒業したばかりの若い人がほとんどであった。新鮮だ。
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新設校であるから人以外は何もかもが新しい。講義室にある黒板も当然新しい。教卓には最新の機器が備えられ、まだ精密機器特有の匂いがするほどであった。
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しかし、一つ気になることがあった。キャンパスが異常に小さい。最先端のネット大学でもなかろうにこれで全学生を収容しきれるのだろうか。グラウンドも体育館も無い。体育館らしきものはあるが到底体育館とは呼べない代物だ。
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講義開始日の翌日が私の出講日だった。自由選択の共通科目なので受講者は少ない。少ないとはいえこうして現役の大学生に法遺産を伝えられることは有り難い。
新しい勤務先である新しい大学で、最初の講義日に新入生を出迎えようと正門近くに立った。そして、驚くべき事態が起こっていることを知った。
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大学に隣接する地元の魚加工工場の建物にスピーカーが取り付けられ、そこから不穏な内容の放送が登校してくる学生に向けて流れていた。「不穏な内容」の詳細は割愛するが、要はこの大学が地元の反対を押し切って建てられ、学生を受け入れているという内容であった。
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キャンパスが異常に狭い理由も間をおかず明らかになった。本来、キャンパスを建設するはずの土地について、地元住民から環境アセスメントの調査請求が出たため建設が止まっていたのである。私が講義をするこのキャンパスは、いわば仮ごしらえのキャンパスだった。
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今は1年生しかいないので何とかなる。しかし、来年以降、万一本来のキャンパスが立たなければこの大学はどうなるのだろうか。私はまた職を失うのだろうか。
(つづく)