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昼間明るい所や蝋燭が灯っている部屋ではほとんど何も見えない天才鍼師ギョンスだが、真っ暗闇の中では視力が僅かながら蘇る、故のこのタイトルになっているのだろう。清朝に人質として預けられていた世子が仁祖の元に里帰り。旅の疲れか、人質生活のストレスからか咳がなかなか止まらない世子。治療を任されたギョンスと主任鍼師は世子の治療にあたるのだが、そこでギョンスはとんでもない場面を目撃してしまう。
お話自体は韓流にありがちな陰謀もので、ギリシャ神話やシェイクスピア悲劇などにもよく出てくるストーリーなのだが、そのオチにもって行くまでのじわじわとした展開のさせ方がなかなかお上手。但し、人の介助がなければ歩くこともままならなかったギョンスが、殺人現場を目撃した途端マジ走りする様子は、ヘルプマークのワッペンをこれみよがしにぶら下げているエセ健常者と見紛うほどだ。
このギョンスの活躍により事件は一応解決するのだが、やはり史実を改竄することには躊躇いがあったのか、日航ジャンボ機123便のように真相は闇に葬られ、権力者にとって都合の良い後味の悪い結末が待っている。ギョンスの目が効く薄暗いシーンが大変多いのだが、被写界深度を浅くした映像が奥行きを感じさせるため不思議と閉塞感はない。TVドラマの平べったい映像とは明らかに異質な立体感を醸し出しているのだ。
見えているのに見えないふりをしていろ。イスラエルにおけるパレスチナ人虐殺を目撃しながら、金融、軍事、政治、教育、メディアの各業界で圧倒的な権力を握っているユダヤ勢力に忖度し、イスラエルの蛮行に目を瞑り続ける西側諸国の愚を、この映画は舌鋒鋭く非難しているような気がしてならない。
欲を言えば。『暗くなるまで待って』のように、健常者有利の状況が暗転することによって立場がガラッと逆転するような演出が欲しかったところ。『王になった男』のような、かなわぬ身分違いのラブ・ストーリーを盛り込んでも良かったのかなぁ。どう考えてもあり得ない必殺仕事人的なエンディングはやっぱり蛇足だったよね。
梟 ーフクロウー
監督 アン・テジン(2023年)
オススメ度[⭐️⭐️⭐️⭐️]