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辻仁成の小説のようなタイトルをつけた本作は、NHK教養番組でも引っ張りだこの分子生物学者福岡伸一のベストセラーである。この人理系のくせに文章が異様にうまい。福岡が勤務していたロックフェラー大学(NY)やハーバード大学(ボストン)周辺の街並みを綴った文章などはプロ作家顔まけの描写力、しかも相当の文学的素養がおありとお見受けした。まさに分子生物学者の突然変異体である。
野口英世やワトソンなどすでに脚光を浴びている歴史的偉人に対してはどちらかというと冷淡な眼差しを向ける福岡。前半はそんな科学家たちとは対極に位置するアンサング・ヒーローたちへのトリビュートになっている。DNAが遺伝子の本質であることを確信していたオズワルド・エイブリー、DNAを人工的にふやすPCRの原理を考案しながらその利権からはずされたキャリー・マリス、X線解析によってDNAの構造を暗に言い当てていたダークレディことロザリンド・フランクリン、そしてそれを慧眼により見抜いた静かなる物理学者フランシス・クリック…
シュレーディンガーとシェーンハイマーが予測した動的平衡システムとしての生命の本質。その裏付けともいえる、若き福岡自らが携わった細胞膜研究のダイアリーが、本書の後半では詳細に語られている。生物学の専門的知識がないとなかなかついていくのが難しい箇所が多々見受けられるものの、同じ分野を研究する他大学チームとの仁義なき抗争の実態などまるでミステリーのような息詰まる展開に、読者のページをめくる手は止まらなくなることだろう。
エントロピーの増大をふせぐべく絶えず体内を通りすぎていくたんぱく質の流れ。似非科学のような言及はさけたほうがいいと重々承知のうえで申し上げるなら、たとえ量子論にいたらずとも、本書が述べる“動的平衡システムとしての生命本質論”は、まさに仏教における無我の境地を証明した論述と言えまいか。一部の機能が欠損したとしても見事としかいいようのないバックアップを起動させるこの生命というシステムに、福岡は人工的な操作を加えるべきではないと最後に主張する。それは福岡が生命システムの中に神の存在を認めたからではないだろうか。
機械には時間がないが、生物には時間がある(福岡伸一)
生物と無生物のあいだ
著者 福岡伸一(講談社現代新書)
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