ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

メッセージ

2018年02月12日 | ネタバレ批評篇


レンタルする前に事前に原作を読んで予習をしておいた1本。この映画、テッド・チャンの原作短篇とは異なる点がいくつかあり、そこに本作のいわんとする“メッセージ”が込められていると思うのである。

地球に飛来する宇宙船の数が映画では(予算の関係上?)合計12基にまで減らされ、中国人民解放軍の暴走が引き金になって一触即発の状況に追い込まれる描写は原作の中にはない。

原作ではそれこそティータイムを楽しむようなノリで終始和気藹々と主人公たちが宇宙人に謁見しているのだが、映画ではのっけから暗い色調で国際間の緊張感をあおるような演出を施している。

映画の中でヘプタポッドが描く書体をよくよく眺めると、あの国際連合のシンボルマークと酷似していることに気がついた方も多かったことだろう。

そして、原作の中ではペアを組む物理学者からフェルマーの定理を例に変分理論を説明され、そのヘプタポッドの描く文字が非時系列の表義文字であることに主人公が気づく重要なくだりがあるのだが、映画では無視されている。

さらに、宇宙人飛来の目的が曖昧にぼかされている原作に比して、ある目的のため“言葉という武器”を与えに来たのだとヘプタポッド自身に明言させているのだ。

個人的妄想を以下に述べさせていただくならば、表向きにはアメリカにとっての「a rival」中国へ国際協調を促すとともに、ヴィルヌーヴ個人にとっての「a rival」クリストファー・ノーランに対する挑戦状とも受け取れるメッセージを届けたかったのではないか。

映画『インターステラー』の中で、人類による科学万能主義を高らかに唱い上げたノーラン。正統派文系監督ヴィルヌーヴにしてみれば、同じSF映画の中で「“言葉”の重みを忘れてやしませんか」と一言いっておきたかったのではあるまいか。

いずれにしても、哲学そして物理学における絶対定理“因果律”に風穴を開けようと試みたテッド・チャンの意欲的な原作に比べると、映画の方は若干トーンダウン、テーマが矮小化してしまったような気がするのだがどうだろう。

語りえぬものには
沈黙しなければならない。
  ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン

メッセージ
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ(2016年)
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