『メランコリック』という素人メイドのなんちゃって邦画があるのをご存じだろうか。たとえシリアルキラーであっても差別してはいけない。どうせ完全な人間なんかいやしないんだからみんな分け隔てなく楽しくやろうぜ、というダイバーシテシィの意味を完全に履き違えた問題外作である。
人類抹殺を企てる地球外生命体シンビオート3体が、超怪しい財団が打ち上げたロケットに乗って飛来、次から次へと人間に“ヒドゥン”していき同化していく。人類の宇宙移住という財団の目的には一応納得感があるものの、トム・ハーディ演じる主人公エディがヴェノムと(いやいや)同化し“アップグレード”していく様は確かにどこかで見覚えがある。
他のSFからアイデアを少々パクったぐらいではあまり気にならない私だが、財団の悪事を暴露しようと試みた編集者エディと意気投合したヴェノムによるまさかの反逆行為に、(あのスパイダーマンを忌の際ま追い込んだヴィランだけに)「それはないだろ」と首を傾げた方も多かったのではないか。
悪の化身ヴェノムがまさかの善に目覚めた段階でもはやストーリーロジックは破綻をきたし、感情移入どころかどっちらけ。「これが多様性なんだよ」と云われればそれまでだが、倫理や道徳をここまで無視したシナリオにはむしろ違和感すら覚えるのである。限りなき相対化の果てにリベラルがたどり着いた“多様性”とはつまり“カオス”以外の何物でもないのではないか。
昨年おおいに盛り上がった米国大統領選挙で、トランプ支持層をも自陣に取り込む為に掲げた“ダイバーシティ&インクルージョン”という聞こえのいいお題目であるが、本作もまた“悪”をも体内に取り込み味方へと変えてしまうヒーローのお話だ。そんなプロパガンダとも露知らず、表面的な美辞麗句に踊らされてる日本人(特に若者)を見ていると、オジサンはとっても悲しくなるのである。
ヴェノム
監督 ルーベン・フライシャー(2018年)
[オススメ度 ]