本業よりもなぜかお悩み相談サービスの方が有名になってしまったナミヤ雑貨店。その店主が死に空き家状態の雑貨店に、別の所で押し込み強盗を働いた3人の少年が逃げ込むと、閉じられたシャッターの郵便受けに30年前に書かれたお悩み相談の手紙が投げ込まれ…
過去と未来の文通というのは皆さんご指摘のとおり『イルマーレ』と同じアイデアだ。物凄いペースでそこそこのクオリティを保った小説を量産し続ける東野圭吾にはゴーストライターの噂が絶えないが、一見オムニバス風の複数エピソードを強引に結びつけた技巧はさすがベストセラー作家ならでわ。
押し込み強盗を働いた施設出身の3人組、大学中退後シンガーソングライターを夢見る孤独な青年、親の虐待から逃れる為施設に預けられた姉弟、無理心中の車から投げ出され一命をとりとめた少女…暗い世相を反映したこれらのエピソードは実にリアルだが、人間最後まで諦めなければ…とでもいいたげな性善説を押し付けるエンディングに、とってつけたようなわざとらしさを覚えた方も多かっただろう。
一度失敗すると基本的には二度と這い上がれない日本のシステムにおいて、すねに傷をもった子供が大人になってからいわれのない差別を受けることを、この映画いな小説は暗に隠しているのだ。詳しい事情も知らずに「君の未来は白紙だ」などときれいごとを言ってのけるナミヤ店主のたわ言をまともに信じる人間など、いまの時代皆無に近いだろう。
その意味で現実世界をなぞっているのは、サクリファイスの果てに犬死にする林遣人演じるシンガーソングライターのパートだけであり、残りはルーザー決定のレッテルを貼られた人間がお悩み相談を真に受けて社会復帰するという、現実にはあり得ないおとぎ話。こういう映画を見せられると、臭いものにはフタをして残酷きわまりない現実から目を背ける悪癖から、未だに抜け出せない日本の現状が鮮明に浮かび上がってくるのである。
ナミヤ雑貨店の奇蹟
監督 廣木隆一(2017年)
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