ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

長い散歩

2009年11月06日 | ネタバレなし批評篇
奥田瑛二が監督した長編3作目は、どこか古いフランス映画を思わせるヒューマン・ストーリー。校長職を定年退職し娘に家を譲って一人暮らしをはじめた初老の男と、母親から虐待を受け続け心を閉ざした少女の交流を描いた物語は、あの『シベールの日曜日』を思わせる。『地下鉄のザジ』からの引用かとも思わせるコマ飛ばし技法などにも、奥田監督がフランス映画をよく研究している跡がうかがえてうれしくなる。

少女が母親(高岡早紀)から虐待を、ヒモ男からセクハラ?を受けるシーンなどは大変良く描けていて、涙なくしては見られないぐらいなのだが、もう一方の主人公・松太郎(緒方拳)のトラウマの原因がイマイチあいまいにボヤかされている点が少々気になる所。仕事優先で家族をないがしろにしてきたことを薄々想像できるシーンが時々フラッシュバックで挿入されるのだが、「あの人は他人」と娘に言わせるほどの決定的亀裂の原因がはっきりと伝えられていないのだ。

「お嬢ちゃんのお名前は?」
「ガーキ!」
なかなか心を開かない少女が時折みせる子供らしい仕草や表情、旅の途中で出会ったわたる(松田翔太)との擬似親子的な風景などは非常に丁寧に描きこまれており、観客の魂をゆさぶるには十分な演出がされている。

しかし、奥田自ら演じる刑事が登場し2人を指名手配するくだりからは、(登場人物の口を使って)少々観客に説明しすぎのきらいがあり、せっかくの芸術性が損なわれているのも事実だろう。なぜ、山へ出かけて青空に浮かぶ雲を少女と一緒に見ようとしたのか。緒方演じる主人公と家族との思い出シーンをもっとバランスよく配置してラストにもう一工夫があれば、『おくりびと』レベルの感動を呼べたにちがいない1本。

エンドロールで流れる「傘がない」は、映画の内容とは少々アン・マッチであることを付け加えておきたい。

長い散歩
監督 奥田 瑛二(2006年)
〔オススメ度 

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