プラットフォーム

ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階層にいた。部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が"プラットフォーム"と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてくる。上からの残飯だが、ここでの食事はそこから摂るしかないのだ。同じ階層にいた、この建物のベテランの老人・トリマカシからここでのルールを聞かされる…1ヶ月後、ゴレンが目を覚ますと、そこは「171」階層で、ベッドに縛り付けられて身動きが取れなくなっていた！果たして、彼は生きてここから出られるのか！？

　　　　　　　　　公式ホームページより

大抵の観客の皆さんはこう思われるはずです。このVCTと呼ばれる装置が一体何のメタファーになっているのかと。他の方のレビューを読ませていただくと、大体2パターンに別れるようです。一つは、現代格差社会のヒエラルキー構造をそのまま風刺した建造物ととらえる社会派的見方。もう一つは、この映画の中に意図的に散りばめられているキリスト教的要素に着目した救世主物語ととらえる見方です。中間以上の階層にいる時は、下層階の人たちのことを思いやる余裕をみせたりする主人公なのですが、一度自分が下層階におちるやいなや、暴行・殺人・カニバリズム、果ては下層の人々を“糞”でおどす嫌な人間になりはててしまうのです。

キリスト教的な見方をする場合、皆さん一様に最下層階“333”の数字に着目されているようです。2人一組のため無理やり2倍の666にして、ダミヤンと結びつけたがる方も多いらしいのですが、三位一体でもお馴染みのこの“3”という数字、新約聖書のいたるところで発見できる“救世主”を示す数字らしいのです。どことなくキリストの風貌に似ているゴレンではなく、最下層に隠れていたあの子供こそが救世主だった、そう観客に思わせたい監督の意図を感じるのです。肉体→パン、血→ワイン、伝言→預言に置き換えればまんまキリスト復活の物語じゃねぇかと、大いにご納得された方もきっと多かったことでしょう。

しかしそれではまったく面白みにかける気がするのです。SFの醍醐味であるセンス・オブ・ワンダーをまったく感じないのです。わざわざこの時代にキリスト教を持ち出してくる意義がよくわからないのです。じゃあ、あの縦穴は一体なんだっていうの？よくぞ聞いていただきました。福岡伸一をはじめ人間をいわゆる“管”にたとえる生物学者は比較的多いと聞きますが、簡単にいうとこの映画『はたらく細胞　オートファジー版』だったのではないでしょうか？はぁ？何いってんのバカじゃねえの。そのバカな発想こそがセンス・オブ・ワンダーなのです。

上層階から段々と食物がなくなっていく様子は摂取した食物が消化分解される過程であり、住人→細胞&細菌で、未消化物が残っていると体温上昇や体温下降で脳（0層）に警告を発信。ガス臭気はもちろん屁、1カ月もたてばほぼ全身の細胞が入れ替わり、飢餓状態の時はお互い“共食い”をはじめるオートファジー機能付き。聞けばこのオートファジーと呼ばれる自食作用、がん細胞（ラムセス2世の飼い主）治療にも効果的だとか。腸内でも悪玉コレステロール（刀をもったヤバい連中）をやっつけてくれるたのもしい味方なのです。第333層に隠れていたお子さまは、便秘や肥満の大敵“宿便”か？お役目ご免の主人公、最後は💩と一緒に気持ちよく排泄されていくのです。

プラットフォーム

監督　ガスター・ガステル=ウルティア(2019年)

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