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新しく建ったマンションの住人の訴えで、段ボールの集積場所が目茶苦茶遠くなったことがある私にとって、フランスからスペインの田舎町にわざわざ引っ越してきて、地元住民にとっては棚からぼた餅的な風力発電誘致に反対するアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)にはむしろ反感を覚えるのである。余所者のクセにコミュニティーのしきたりにクビをつっ込むんじゃねえと、暴力にうったえる野獣兄弟の気持ちもまんざら分からなくもないのである。
スペイン人監督ソロゴイネンによれば、2010年にオランダ人カップルに起きた実際の事件に基づいて作られているそうで、旦那が謎の失踪を遂げた後でもなぜかその村に居座り続けた奥さんの気持ちにフォーカスを当てたかったらしい。なるほど、映画前半は野獣兄弟の段々エスカレートしていく嫌がらせに怯えるアントワーヌを、後半は毅然とした態度で普段と変わらない生活をし続ける奥さんオルガ(マリーナ・フォイス)を主人公にした2部構成になっている。
どう考えてもアントワーヌを殺したとしか思えないお隣さんの弟に何故かなつきまくっているジャーマンシェパード君が、汚名挽回とばかりにアントワーヌが隠し撮りしていたビデオを発見し大手柄と思いきや....バカ犬は最後までやっぱりバカ犬のまま、クソの役にも立たないとはまさにこの犬のことなのである。身の安全を心配した娘が母親オルガをフランスに連れ戻そうとするのだがこれまた徒労におわり、証拠のビデオも修復不可能とくれば、単なる引き延ばしとしか思えない冗長な後半は退屈この上ないのである。
なんだか分からない内に旦那アントワーヌの遺体が発見され、なんだかわからない内に野獣兄弟も逮捕され、めでたしめでたし....この映画オチがよく分からないまま終幕してしまうのだ。この村の自然は素晴らしい、だから風力発電には反対といわれてもねえ。糞まみれの牛小屋を掃除して近所の居酒屋で安酒を飲むぐらいしか楽しみのない兄弟や村の人々が、ジェントリフィケーションのロマンチシズムなど理解できるわけがないことぐらい、アントワーヌだってわかっていたはずだろう。
スペイン・コミュニティーの暗部を描こうとしたら、途中でお節介なフランス人の厚かましさを非難せずにはおれなくなった。なぜなら、EU的グローバリズムが騙るウソが次々と白日の下にさらされている現在、ソロゴイネン監督のスペイン人としてのナショナリズムが目覚めたとしても不思議ではないからなのだ。映画中盤の選手交替劇は、そんな映画監督の心境変化を如実に現しているとは言えないだろうか、全てをバカ犬ティアンのせいにして。
理想郷
監督 ロドリゴ・ソロゴイネン(2022年)
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