次作『地下室のヘンな穴』がフランス国内で大ヒットの鬼才カンタン・デビューによるホラー・コメディだ。フランス期待の映画監督として現在大注目のうちの一人らしい。デッドパンな表情の登場人物たちが乾いた笑いを提供する作風は、タランティーノというよりもヨルゴス・ランティモスに似ているのかもしれない。主要登場人物もわずか2人だけ、77分 でサクッと見終わる潔い編集は、洗練にこだわりがあるフランス流だ。
ディアスキンに恋をした対物性愛症の孤独な男ジョルジョが、“世界で唯一ジャケットを着る男”になるために、田舎町で連続殺人を繰り広げる不条理劇である。お相手役をつとめるのが『燃ゆる女の肖像』のアデル・エネル。フェミニストでレズビアンの彼女が、変態男の“鹿革愛”にも負けない“映画愛”を発揮するシーンがなんといっても見所だ。
鹿革のジャケットを買ったらなぜか“オマケ”についてきたハンディカム。アデル扮するドゥニースに仕事を聞かれ咄嗟についたウソがきっかけで一人映画撮影を開始するジョルジョなのだ。映画編集が趣味というドゥニースのオシもあり、ジョルジョのジャケット狩り=殺人がどんどんエスカレートしていく。本来主として扱われる殺人が、ジャケット愛や映画愛の影に隠れてすっかり“オマケ”扱いなのである。
ストーリーがあるようでないようなこの作品、(『カメ止め』のような)映画内映画撮影がメインストリームといってもよいのかもしれない。素人ジョルジョ(監督カンタン・デピューの分身か?)がお手本にする映画といえば当然ポピュラーなB級作品になるわけで、それらB級映画に捧げられたオマージュネタにいくつ気がつけるかで本作の評価も定まるような気がするのである。
監督カンタンの英語読みクエンティン(タランティーノ)の『パルプ・フィクション』がまず実名であがったかと思えば、全身鹿革で統一された主人公のファッションは『クロコダイル・ダンディー』か?武器となるシーリングファンの羽根を道路で火花を散らせて研ぐシーンは『ブラック・レイン』、定番『サイコ』をにおわせるシャワーシーンを挟んで、ラストはおそらく『ディア・ハンター』だろう。
ディアスキン 鹿革の殺人者
監督 カンタン・デビュー(2019年)
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