2016.2.5 01:00更新
【松本学の野党ウオッチ】
民主党の「解党」「党名変更」に意味はない 維新の党は「覆水盆に返らず」の故事を知らぬのか?
http://www.sankei.com/premium/news/160205/prm1602050003-n1.html
民主党大会後の記者会見で質問を聞く岡田克也代表=1月30日、東京都内のホテル
想像してみてほしい。全国展開する従業員1万人の企業と、支店網が手薄な2000人の企業の合併話が持ち上がったとする。その 際、規模の小さい側が「社名を変更しないと合併は飲めない」「うちも解散するから、おたくも解散しろ」と迫ったら―。苦笑するほかにない主張だが、永田町 にはそんなざれ言を真顔で口にする人たちがいるようで…。
1月30日に開かれた民主党の定期党大会は例年になく耳目を集めた。岡田克也代表が維新の党との合流の可否を判断する期限として示した「3月末」まで2カ月を切ろうとする中、「党大会で岡田氏が何らかの方針を示すのではないか」という噂が駆けめぐったからだ。
しかし、ふたを開けてみれば、岡田氏の党大会での発言は実にあっさりしたものだった。
「新党結成も選択肢として排除されていない」
「私と維新の党の松野頼久代表との間でさまざまな議論を集約していきたい」
新党の可能性をあくまで「選択肢」にとどめ、「何か言っているようで何も言っていない」(民主党閣僚経験者)表現に収めたわけだ。
“期待”は見事に裏切られてしまったが、何のことはない、噂の発信源は「民主党解党-新党結成」「党名変更」のシナリオに固執する維新の党だったのであ る。民主党大会の1週間ほど前から、複数の維新の党議員の「ボールは民主党側にある。党大会での代表発言に注目している」(衆院ベテラン)といったオフレ コ発言が広く漏れ伝わり、結果、「岡田氏による重大発表説」がまことしやかに語られるようになったというのが内幕だ。
維新の党側には「民主」とは別の名称の政党でなければ有権者に清新さをアピールできないという思いが強い。とりわけ、衆院21人のうち約半数を占める民主党出身議員にとっては、「元の鞘に収まっただけ」というイメージは何としても払拭したいところだ。
これに対し、民主党執行部は、仮に両党が合流する場合は実質的な吸収合併にすべきだという考えが大勢を占めている。枝野幸男幹事長がこの代表格とされ、維新の党側は「“枝野ブレーキ”がかかっている」(幹部)と警戒感をにじませる。
民主党が維新の党との「対等合併」に慎重な理由のひとつは、両党の「格」の違いだ。所属国会議員数で比べれば、民主党は維新の党の実に5倍である。地方組 織も全国に持ち、約20年間の歴史もある。「党名変更はもっと大きな再編の局面が訪れたときにとるべき選択だ」(民主党若手)という意見が出るのも無理は ない。
党大会に先立ち開催した地方代議員会議では、党名変更や解党を支持する声はなく、逆に「維新の党は吸収すべきだ」との発言があった。「民主党王国」と称される北海道の市橋修治・道連幹事長は会議後、記者団に「解党は国民が求めているものではない」と断じた。
民主党最大の支持団体である連合も同様の意向が根強い。ある連合幹部は最近、維新の党の民主党出身議員を念頭に、こう漏らしている。
「家を出ていった女房が『他の男と暮らしてみたが、やっぱり元に戻りたい』と。それだけではなくて『家の表札を変えろ』とまで言ってくる」
太公望が愛想を尽かして出ていった妻が復縁を求めてきた際、盆の水を床にこぼして「この水を盆に戻してみよ。できたら復縁に応じる」と言ったという 故事が頭にあったのは明らかだ。しかも、「覆水盆に返らず」どころか、復縁を求める側が条件を突きつけている状況を痛烈に皮肉ったようだ。
もちろん、「解党」「党名変更」を主張する議員の中には、自民党に対抗できる野党勢力の構築を真剣に模索している向きもある。一方で、自己の保身や目先の 選挙のことを考え、安直に看板の掛け替えを望んでいる者がいるのも確かだ。両者を見分けるためのヒントのひとつは「選挙の強さ」である。
衆院の場合、大差で選挙区を制した議員にとって「表札」にこだわる必要性は低い。比例の得票がふるわない政党から出馬しても当選できるとの自負があるから だ。従って「表札を変えよ」という主張も保身とは別の動機によるものと推測できる。しかし、選挙区で勝負できない比例復活頼みの議員にとっては、有権者を 引きつける「表札」を掲げる他に生き残る道はない。
「惜敗率」という選挙用語がある。当選者の得票数に対する落選者の得票数の比率だ。 90%台や80%台の惜敗率なら「一歩及ばなかった」とみることもできるが、70%に満たないような比例復活当選の議員は「有権者にノーを突きつけられた ものの、党の看板に救われてバッジをつけられた政治家」といえる。こうした議員が唱える野党結集論には、よくよく注意して耳を傾けなければならない。
「ぜひ皆さんの力をもっともっと結集して、われわれ野党のケツをたたいてください。これからわれわれ政治家が野党連合を作っていく!」
夏の参院選で野党を支援する市民団体系の組織「市民連合」が1月23日に都内で開いた会合で、こう高らかに宣言した維新の党の初鹿明博国対委員長代理は、前回衆院選の東京16区で自民党候補に敗れ比例復活した。惜敗率は57・54%である。
初鹿氏の得票数は、自民党候補の9万8536票に対し5万6701票で、共産党候補の得票数(3万6976票)を上乗せしてみても届かない。「野党がバラ バラでは自民党を利する」という掛け声をよく耳にするが、初鹿氏が敗れた理由は「野党がバラバラだから」ではなく、単に有権者に支持されなかったからであ る。もっとも、初鹿氏自身もこのことは自覚しているようで、過去にツイッターで「無所属や他の野党では当選出来なかった」と告白している。
ちなみに維新の党の民主党出身衆院議員10人は全員が比例復活で、このうち6人が惜敗率70%未満だった。
惜敗率は党のホームページなどでは確認できず、有権者にはなかなか分かりにくいが、過去の小欄「橋下市長が民主党“脱藩組”を『ニセモノ』と毛嫌いする理由とは…」(http://www.sankei.com/premium/news/151010/prm1510100025-n1.html)で、分裂前の維新の党衆院議員の選挙区での勝敗と惜敗率を一覧表にして掲載している。各議員が掲げる「野党再編論」の真贋を判断する材料のひとつとして、参考にしていただきたい。