日本経済新聞日曜日文化面で見つけた、
カラダの中の川
この文字に反応しました。
わたしは脳梗塞による身体麻痺に悩んでいます。
23年の8月、散歩中突然、アタマの中で神経が流れる感覚を感じました。
文字に変えれば、「グニュ」という感じでしょうか。
同時に、麻痺足の動きが軽くなったように感じました。
*同じ症状に悩む人ならご承知で、麻痺足は感覚上、重く感じるのです。
これだ。
アタマの神経が新しい回路を開いた。
こういうことなのか。
なるほど。
このカラダの中には、血液に始まり、神経、リンパ液までもが流れているのです。
東洋医学での経絡もありますね。
身体の中の川 東直子
リンパ節郭清で失われた通路の代わりに、細い脇道ができ、そこをリンパ液が流れることで浮腫は免れるらしい。なんらかの原因でせき止められた川の流れが、新しい流れを作るように、身体の中の新しい通路を体液が滞りなく流れてくれれば、このむくみは消えてくれるかもしれない。
身体の中を川が流れていくイメージを浮かべつつ、左腕をなでた。川といえば「春のうららの隅田川……」という歌詞で始まる「花」である。この歌を小さな声で歌いながらゆっくりと腕をなでると、よりなめらかにリンパ液が流れていくような気がした。心なしか、むくみも少しずつ改善されてきたように思う。
身体には、地球の水脈のように血液やリンパ液などの体液が身体のすみずみまで巡っている。巡り続けることで、生きていられる。私たちは一人一人、それぞれの大事な川を持っているのだ。
原発の乳がんは、6月に受けた手術で取りきることができた。リンパ節への転移もあり、腋窩(えきか)リンパ節郭清も行ったのだが、この影響で腕にリンパ浮腫のようなむくみが生じ始めた。今受けている抗がん剤の副作用としてのむくみも加わったのかと思う。
リンパ浮腫を防ぐために、リンパ節郭清をした方の腕では生涯、重い荷物を持ったり、腕時計をしたり、採血をしたりしてはいけない。怪我(けが)はもちろん虫さされにも気をつけなければいけないのだ。私の場合は、左腕だけ過保護なお姫さま扱いである。
いったんリンパ浮腫になってしまうと、完治するのは難しいと言われている。リンパ節郭清をした人の中で、10~20%くらいの確率でリンパ浮腫が起こるらしいが、そちらの方に入ってしまったのかと思うと、暗澹(あんたん)たる気持ちになる。
死んだ神経回路に代わる別の神経回路を開くことを、脳の可逆性と言います。
脳神経回路を開く薬や外科治療法(保険適用外ですが、固まった筋肉をほぐす注射薬はあります)はないので、(リハビリ訓練を受けながら)自己トレーニングによる改善方法しか今はありません。
【用語解説】
*脳の可塑性(のうのかぎゃくせい)は、ノルウェーの神経解剖学者のAlf Brodaが自分が脳梗塞になった体験から、 1973年に唱えだした比較的新しい概念です。
脳の細胞は一度失われる2度と再生することはありませんが、脳への刺激により、脳細胞の配列が変化し、損傷していない部位が壊死した細胞が担っていた機能を代替し、運動の記憶が戻る、つまり運動機能が回復されていくという理論に基づいています。
この理論にもとづくと、従来健側(健康な身体の半身)で日常生活を成立させるためのリハビリが主流でしたが、病側(麻痺した半身)に対するアプローチも含めたリハビリが重要になってくると考えられます。
現在ではまだ不明な点も多いながらも、臨床結果で脳梗塞の後遺症改善の事例が見られており、今後のさらなる解明が期待されています。
*経絡(けいらく)とは、気・血・津液が流れる通路のことで、全身に分布しています。主要なものは、人体を縦に流れる12本の正経と、人体の正中の前と後ろを流れる2本の経絡の、あわせて14本の経絡です。