ファンタジーの物語、まさにおとぎ話のような。
昭和9年に曾祖父から祖父が引き継いで開業したクラウドエヴィング商会は、西洋舶来商品輸入商社、その三代目が回顧する祖父による1943年の「不思議な国アゾット」旅行記について。モチーフになるのが祖父の愛した酒、音楽、タロット、そして数字のマジック。
7つの地区に分かれた3つの国を旅した祖父、その旅行記では各国を通るたびにパスポートを受け取り、番号をもらう。その番号が142857、次が285714、次が428571、571428、714285、857142ときて最後は999999。これらは最初の142857の倍数で最後の999999は7倍であると。この7つというレトリック、虹色の赤橙黄緑青藍紫、音階のドレミファソラシ、タロットカードの3X7=21枚などと物語の中で繰り返される。
いずれも他愛のないものばかりだが、旅行記を読んでいると「なるほどな」と思わされるから面白い。人々の記憶は忘却の中にあり、人々の知識さえも忘却の彼方にある。人生は繰り返し、人生は人々の記憶の中にあるもの、などなど、多くの示唆を含む科白が繰り返される。
タイトルのクラウドコレクター、クラウドは人々の記憶が空に昇って忘却されると雲になる、その雲を壜に詰めて集める人、というほどの意味。壜は雲が中にある、なんていう話もある。挿絵が楽しくて、それを見るのも楽しみ。東急ハンズによく売っているようなお部屋に飾り付ける小物が好きな人は、きっと好きになる物語。興味があればどうぞ。