方言は時代とともに変わる、ということを学問的に解説した一冊。有名な「蝸牛考」では「カタツムリ」をあらわす「デンデンムシ」「マイマイ」などの言葉は京言葉から地方に伝達されたので、京都を中心として円状に日本列島に年輪のように広がっている、という説。本書によれば、平安時代から江戸時代前期まで、江戸時代後期、明治維新から戦前、戦後の昭和、そして現代と日本標準語の中心が変化。京、江戸、標準語、そして教科書に掲載された共通語が中心となる。伝達は京からは旧街道伝いに、江戸からも街道沿い、そして鉄道ができると鉄道沿いに、そして教科書は学校教育を通じて全国に平準に伝わった。それを82の単語を使って検証している。
方言は戦前までは撲滅すべきものとして位置づけられもしたが、その後は残して後世にまで伝えるべきものとされ、現代では娯楽の位置づけに変化している。NHK調査によれば方言は地方により位置づけが異なり、東京、大阪、京都、神奈川、神戸、札幌という都市では「自信型」、茨城、福井、栃木、石川、富山などの北関東・北陸では「自己嫌悪型」、愛知、千葉、埼玉、滋賀、奈良などの都市近郊では「地元蔑視型」、東北各県や四国などでは「恥ずかしいけど好き」という「分裂型」と分類できるという。
アメリカ合衆国にはイントネーションやアクセントの違いはあるものの日本のような方言は見られない。欧州では、地方ごとに存在する言語が日本における方言に位置づけられるかもしれない。「土曜日」は北ドイツではSonnabend、日曜の前の晩とされ、オランダや英語ではローマ神話のサツルヌスに基づいている。復活祭のイースターは英語圏ではEaster、ラテン語圏はヘブライ語起源のpascua(過ぎ越しの祭)となる。
日本でもアイヌ語と東北弁・日本語に共通する「ベツ」「ナイ」「シロカネ」などの単語や言い回しがあり、中国や朝鮮半島との共通語には情婦を意味する「シャンス」(長崎、佐賀)、袖なしの着物を意味する「ホイシン、ポンチン」仲良しを意味する「チング」(北部九州、瀬戸内)、スケソウダラの子を意味する明太子(博多)などがあり、日本語の「さつまいも」は朝鮮半島でも「コグマ」「コゴメ」などと言う。
関西で使われる「ヒロウス」関東ではガンモドキ、これは長崎から入ったポルトガル語filhos。戦国時代以降の外来語は長崎から旧街道伝いに全国に広がった。その他、調査するに際し使われた、全国的に言い回しや言い方が異なる単語が面白い。片足跳びの「ケンケン」は、青森の「ステテギ」秋田の「テッキナゲ」長野の「チンガラ」、熊本の「ステンギョ」など30種類ほどの言い回しがある。単語により全国型、西日本型、東日本型、東京型などもある。使われ始めた時期による違いである。平安から江戸時代までなら西日本型、江戸後期なら東日本、戦後なら東京型となる。「ウロコ」「コオリ」「ナス」「シオカライ」などなど、あなたはどういう、と聞くと出身地が分かる。本書内容は以上。
「ケンミンSHOW」という番組があるが、これは日本独特のプログラムだと思う。大阪や京都、栃木、茨城出身者をイジりながら面白がる、方言は残しながら楽しもう、こういうことではないか。