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意思による楽観のための読書日記

日本の古典を読む16 太平記 長谷川端 ***

1991年の大河ドラマ「太平記」、おぼろげな記憶ではあるが足利尊氏は真田広之主演だったような。本書は太平記の現代語訳版。「太平記」は現存流布本で全40巻もある大書であり「南北朝・室町時代の最大の文学的遺産」とも評価されている。鎌倉時代後半の後醍醐天皇即位から鎌倉幕府滅亡、建武新政、室町幕府成立、観応の擾乱、義満の時代まで、数十年にわたる南北朝時代の戦乱を描く内容である。全体としてみると、全3部構成で、後醍醐天皇即位から鎌倉幕府の滅亡までの第1部、建武の新政とその失敗、南北朝分裂から後醍醐天皇の崩御までの第2部、南朝方の怨霊の跋扈による足利尊氏と直義、高師直対立など幕府内部の混乱を描いた第3部からなる。

太平記の中でも特筆されるのは楠正成の英雄像造形であり、後醍醐天皇による倒幕運動に参画した正成が河内の国の赤坂・千早に籠城し機略を尽くして幕府軍を悩ませた話が有名。正成の出自は鎌倉幕府の御家人説もあるが、河内で商業、流通業を手掛けて実力を蓄えた土豪的武士と考えるのが一般的。こうした階級は鎌倉末期に勃興して幕府や公家とも対立、悪党と呼ばれることもあった。後醍醐天皇はこうした勢力をうまく利用、倒幕に成功した。太平記ではこうした悪党的正成をうまく昇華させて英雄化させたと言える。

一方、物語の構成としては散漫なものがあり、表現はあるときには冗長、歴史観や思想も一貫していない。中国古典に依存、平家物語にも過度に言及しているようにも思える。しかし40年以上にわたる複雑怪奇な戦乱や権謀術数を描いて、実際の歴史に雁行するかのように綴られた同時進行的物語とも言えることは評価されている。

君主と臣下の理想的関係、政道批判、現実への批判的視線は物語を引き締める役割を果たしている。厳しく残忍な時代に、現実と向き合う姿勢、継続する強靭な精神が40巻にもわたり大作を完成させた原動力にもなっている。現代日本人にとって大変な文化的遺産であることは間違いない。本書内容は以上。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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