筆者は最近テレビ出演が増えているようだが、この「歴史エッセイ」を発刊したのにも通底する理由がありそうだ。学問としての日本史とエンタメとしての日本史を繋ぎたい、という筆者なりの努力。日経新聞にコラムとして2018年6月から2019年7月まで書かれたコラムを一冊の本にしたのが本書。読みやすい文章で、日本史で日本史学者の筆者や読者の投書で疑問となるポイントについてまとめられ、面白い日本歴史学の読み物となっている。
たくさんあるので、一例を上げると「カルロス・ゴーンと源実朝」。1219年に実朝は甥の公暁に殺害された。実行犯は公暁、しかし裏で糸を引いたのは北条義時。朝廷の方ばかりを向いている実朝は鎌倉御家人のリーダーにはならないというのが御家人の総意だった。実朝の父は頼朝、京生まれの頼朝だったが常に鎌倉武士たちと共にあるという意識を忘れなかった。妻は糟糠の妻である北条政子、京の文物に親しまず、後白河上皇に物申し、上京したのは2回だけ。これに対し、実朝は何においても京風を好む。和歌を詠み、妻は貴族から迎え、家庭教師も京から呼んだ。後鳥羽上皇への忠誠を表明して官職獲得に血道を上げ右大臣にまでなる。上皇は実朝をコントロールすることで関東武士たちを抑え込もうとしていた。こうした実朝を見ていた鎌倉武士たちは、田舎武士との違い、頼朝との違いを痛感していたに違いない。ゴーンを排除した西川さんにそっくりではないかという話。ゴーンが実朝で、後ろにいるルノーが上皇、関東武士たちが日産社員である。実朝が亡き者となり、承久の乱を起こした上皇だが、フランスルノーはどう出るのか?お楽しみである。