2017年2月にトランプ大統領は、自らのより厳格な移民制限政策に関しコメントをする際に欧州の例として次のように述べた。「諸君、ドイツやスウェーデンで起きていることを見給え、テロが起きたのは昨日のスウェーデンだぞ、あのスウェーデンが多くの移民を受け入れた結果、より深刻な問題を抱えることになったのだ」。このコメントには昨日のテロに関する記事へのリンクが付記されていたが、全くのフェイクニュースだった。
本書は、国際的に非常に高く評価されている国家スウェーデンに関し、誤解を受けることを意図した、もしくはニセと疑いながらもその報道を自社の解説を付けて再報道するようなWEBメディアが存在することを解説している。またそうした報道を知ってか知らずかリツイートする政治家や有名人などについて警鐘を発するものである。
スウェーデンは人口800万人程度の小国でありながら、民主的で先進的なイメージを持ち、ノーベル賞授与で有名になり、ノキアやボルボなどの大企業や、多くのスタートアップ企業も輩出する福祉が優れていて国民幸福度の高い国家である、と多くの人が信じている。それは事実であり、スウェーデンが長い時間をかけて維持してきた広報戦略の成功でもある。
トランプ大統領が「あのスウェーデンが・・」と示したのは、あんなに評判が良かった国でさえ、という文脈であり、今多くの怪しげなWEBニュース媒体がトランプ大統領と同じような文脈で、WEB読者を惹きつけたいがためのスウェーデンに関するネガティブなニュースを作り出しているという。例としてあげられているフェイクニュースが、「クリスマスの灯火が、イスラム移民に配慮して灯されなくなった街」に関する報道、「移民が増えた結果レイプと自殺件数が増えている」という報道などなど。レイプと自殺のいずれも数値を上げての報道だが、スウェーデンがとりわけ多いわけではない統計データを巧みに使ったニュースであった。
2019年になると、オバマ前大統領の演説動画が拡散され、顔の表情を演説内容に合わせて巧妙に作り変えながら、ありえない内容を話すというものだった。FIFAの会長が次のワールドカップ開催国にカタールが選ばれたときの写真を付けて、カタールが隣国との諸問題から開催国から外れる、という報道もあったがこれもフェイクであった。WEBにより報道を知る場合には、そのソースがなにか、信頼が置けるものなのか、その他のメディアはどう報道しているのかなどを慎重に見極める必要がある。
日本においては「クールジャパン」を世界に広めるため様々な努力をしていて、一国民としては当然その一助になりたいと思う。一方で、日韓問題に端を発して嫌韓を煽るような報道を繰り返すメディアがあり、スウェーデンに関する本書の内容を読むと感ずることは多い。これは韓国内での報道も同様である。「メディアリテラシー」という言葉があるが、情報の受け手がどれだけの知識、見識をもって内容を咀嚼して理解するか、またリツイートなど再拡散する際に、どこまで慎重になるかは、常磐道でのあおり運転事件での同乗女性に関する偽情報拡散問題でもその必要性が感じられた。現代社会に生きる一国民としては、自分は知らない、WEBは分からない、ではすますことができない問題だと考える。