意思による楽観のための読書日記

太平洋の薔薇 笹本稜平 ***

熱血、日本の海の男の心意気、というスリルと冒険の小説。ストーリーは手が込んでいて、4次元中継から始まり、最後は事件終結に向かって一直線、下巻の最初あたりからは結末がチラチラと見えてくるが、最後までハラハラさせるテクニックで読者を引っ張る。

生ゴムを積んだ貨物船パシフィックローズ(太平洋の薔薇)号はスマトラ島から横浜に向かっている、船長は柚木静一郎、長い海の男としての最後を締めくくる航海である。アルメニア人のアララトをリーダーとする海賊に乗っ取られるところから物語は始まる。筆者によるとシージャックという言葉は正式な英語にはないそうで、海でも列車でもハイジャックというらしい。4次元中継の一つめはパシフィックローズ号がハイジャックされて嵐が吹きすさぶ東シナ海や日本海を北上し、ロシアの港を経由、アルミのインゴットに埋め込まれたブツを運ぶ、という話し。そして、ハイジャックを関知した海賊情報センターにたまたま出向している柚木船長の娘の夏海を軸にした海上保安庁巡視船によるハイジャックされたパシフィックローズ号の追跡。さらに、世界一周航海中の豪華客船に乗船しているロシア人科学者でアルメニア人のザカリアン博士と博士と知り合う船医の藤井、そこにはテロリストや殺人者が絡み合って、ハイジャックの背景をなすロシアによる生物兵器「ナターシャB」とその開発者であったザカリアンが藤井に伝えるワクチン製法の秘密。そしてアメリカNSA(国家安全保障局)がアルメニア人テロリストを追跡、豪華客船のテロリストを発見して殺害しようとするお話し。

4次元中継が脈略なく示され読者にとってはつながりが見えないまま話しが並行して進んでいくが、生物兵器の拡散とそれを阻止しようとする大国の思惑、そして海の男達の誇りは国家の薄汚い謀略を上回る形で示される。パシフィックローズ号の乗組員達は船長の柚木のリーダーシップによりモチベーションは高いが、ハイジャックされ、嵐に翻弄され、そして生物兵器に汚染されるという究極の状況で船乗りとして、人間としてなにを示し、どのように行動できるのかを試される。また、パシフィックローズ号を追跡、乗務員達を救助しようとする海上保安庁の船乗り達にも同様の状況が最後に訪れる。

手に汗握る、という形容詞がぴったりの海の男達の物語、結末は大いに予見できるが最後まで一気に読み切ってしまう。アルメニア人がトルコに蒙った歴史上の迫害という逸話がなぜこの物語に挿入されたのかは分からないが、ストーリーの根幹をなす設定である。船に関する様々な知識もちりばめられ、筆者の海への想いも感じられる。読み応えのある冒険小説である。
太平洋の薔薇 (上) (光文社文庫)
太平洋の薔薇 (下) (光文社文庫)

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