40歳の身よりのない独身女性が急に舞い込んできて店で住み込みで働く。結婚話を出したとたん翌日にはいなくなる。1年後軽井沢の警察署から電話、自殺者が店のマッチ箱を持っていたという。軽井沢には見知らぬもう一人の中年男がいた。同じように40歳の女性が自殺したとの知らせで大阪から駆けつけたといううどん屋の男。ほとんど同じような状況で呼び出されたらしい。40歳の女性は何者だったのかはわからないが、二人の中年男はお互い詳しくは語らない。「夕映え天使」。
60歳の定年を迎えた男の職場最後の日、昔不倫していた女が挨拶に来る、同期入社で社長になっている男に別れを告げる、行きつけの飲み屋に顔を出す、そして自宅に帰って娘と妻に挨拶する、すべて定年の儀式だと思っていたら、地球に巨大彗星がしょうとするという最後の日であった、「特別な日」。
離婚してしまった母親がたまに会いに来て、帰りの電車の切符の裏に赤い口紅で書いた電話番号が悲しい、「切符」。
大津で殺人を犯した犯人が時効の15年を隠れて過ごした東北の町、特産品は琥珀。小さな町の喫茶店「琥珀」でおいしいコーヒーを出しながら時効を待つ男の前に、定年を2週間後に控えた刑事がたまたま現れる。刑事は手柄をあげようと思うが、その喫茶店自体が琥珀のように昆虫を閉じこめた琥珀に思えてしまい、見逃してやる、「琥珀」
貧乏なので奨学金をもらう主人公ともう一人の奨学生の同級生。主人公は不良、同級生は模範生。主人公は丘の上に立つ白い大きな家に住む少女を同級生に紹介する。同級生は少女に夢中になる。二人は心中してしまい、少女だけが生き残る。少女はその白い丘の上の家で長く生きる。少女は自殺したくて何回も心中を試みていた。主人公は無意識にそれを悟ってか同級生を少女に紹介したのだろうか。「丘の上の白い家」
自衛隊の訓練で富士山の樹海をさまようときに、自殺しようとする人に出会う。30年後の自分ではなかったのかと思う「樹海の人」
浅田次郎のストーリーテリング力は短編にもよく現れている。それぞれが印象的な短編集だ。
夕映え天使
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