大根田さんは中卒でオリンパスに入社した、と書いているが感心するのは彼の実行力である。ドジョウを捕まえてきて在庫管理しながら高値で売れるときに売る話などは小学生が考えてもできる話ではない。英語の勉強をするにもリンガフォンだけではなく実地練習のために立川基地のアメリカ人を紹介してもらい習ったというのだが、思いついたそのことを本当に実現するのも彼の実行力であった。ラッキーはあったろうが、きっかけは彼の行動力。
英語ができることをオリンパスの人事部に評価させるというプレゼンテーションも大根田さん独特のものだった。社内の英会話教室に、アメリカ人仕込みで1年かのの英語修行の後に突然登場して、英会話教室の同級生を驚かせると同時に、クラスにいる人事部員にも見せる、というテクニックである。
思ったことをすぐやる、そしてそのことをやり遂げるまでやる、これが重要だったのだと思う。オリンパスの米国駐在員として単身派遣されたNYになんとしても妻の淑さんに毎日手紙を書く、本当に毎日かいてその数400通までいったときに本当に呼び寄せることができた。毎日手紙をもらった奥さんは感謝しただろう。こういうまめさと熱心さが奥さんも多忙な彼を信頼してついていけたのだろう。
1960年代にアメリカに行って商売を始めた日本人であれば、相当の人種差別にあって苦労もしたと思うが、本には殆どふれられていない。成功した著者へのやっかみや中傷にも出会ったことだと思う。むしろこの本には書かれていない苦労や知られざる努力を想像してしまう。成功物語の「上澄み」自伝とも読める本であるが、本格小説を読んだ読者には違った感想をもたらす。きっとこの成功の裏には猛烈な貧困と上昇志向があったのだと。
水村さんの小説は面白い。続明暗を読もうと思い、「明暗」から読み返してみた。本格小説を読んだらこの本に出会った。本格小説のどこまでが実話なのだろうか、という興味があったことも確かであり、東太郎の生い立ちにも関心があった。水村さんの生い立ちはどこまでが本当なのだろうと、本格小説のながいながい前振りの部分を読んで思ったこともある。
本格小説〈上〉 (新潮文庫)
本格小説〈下〉 (新潮文庫)
中卒の組立工、NYの億万長者になる。
本格小説をよんでからこの本は読んでほしい。
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