意思による楽観のための読書日記

永遠の出口 森絵都 ****

童話作家、というがこれは結構な書き手だと思う。講談社児童文学新人賞を受賞したというが、本編は大人向けとしても十分楽しめる内容である。主人公の女性が小学3年生、小学6年生、中学生、高校生と成長していくプロセスを9つのエッセイにまとめていて、それぞれが独立した良い構成になっている。

小学3年生の女友達6人組の誕生会、プレゼントを交換して食事会をする、という普通のイベントに、6人の中では一人少し毛色の違う女の子がいて、その子をめぐっての主人公の悩みと出来事を綴る。1968年生まれの主人公が小学3年生の時には1978年、まだまだ貧富の差があるなか、誕生パーティに皆で家に行ったのに、パーティも食事会もなく終わってしまった。そのことをクラスの他の皆に話したところ、その子に同情が集まる一方、5人組は食い意地が張ったやつ、というレッテルをはられたというのだ。そしてその復讐に5人組での次回の誕生会にその子を呼ばずにいたら、その子はプレゼントだけを持って誕生会のあと自宅まで持参してくれた、そしてその子の家までお礼に行って、逆に夕食までごちそうになってしまう、そのことをめぐる主人公の葛藤である。3年生の女の子の小さな悩みがよく書かれている。

小学5年生になった時の高学年としての誇りと最高学年ではないというピラミッド社会の記述、誰しも思い出すこと。そしてその担任教諭の意地悪さとクラス全員による団結と反撃。小学6年生から中学生になるときの列車に乗っての小冒険、中学時代の不良時代、父親の不倫による不和を解消することを目論んで姉が仕組んだ家族旅行に中学3年の主人公が望む、父の描写はちびまる子ちゃんの父と重なるが、母親は世の中の一般像とはダブらず、独特である。旅行先での旅館の夜中の非常ベル騒ぎで一家の緊張は一気に別次元へと展開し、両親の不和はなぜか解消の方向に行くが、主人公には納得が行かない部分も見える。高校生になってレストランでアルバイト、アルバイト先の人間関係は、主人公が思うほど単純ではない。店主、社員とアルバイトなど、大人の関係にまた翻弄される。そして恋、好きになった相手を追いかければ追いかけるほど相手は逃げていく、逃げられる理由が分からない、分かろうとしたくない気持ちを描く。そして高校を卒業する、進学組と就職組、そして未定組の主人公。卒業前のイベントを企画するが、欽ちゃんの仮装大賞、ヘビメタ、そしてスターウォッチャー。主人公は星の観察を選ぶ。

どこまでが実話なのかはどうでもいいが、一つ一つのエピソードが女の子の心理から描かれて面白い。男の子バージョンを書いてみたくなるような、そんな一編である。
永遠の出口 (集英社文庫(日本))
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