意思による楽観のための読書日記

睡蓮の長いまどろみ(上) 宮本輝 ***

主人公の世良順哉の母は20歳で順哉を生んだ後に、自由に生きたいと家を後にしたという。父は今の母登紀子と再婚して順哉を育てた。順哉は今は結婚し、妻の津奈子とのあいだには15歳の息子もいる。夫婦でイタリアのアッシジに旅行した折に、女性雑誌に掲載されて知っていた森末美雪に会いに行く。美雪は62歳、実は順哉の産みの母なのだが、順哉はそのことを美雪には伝えていない。

日本に帰ってきて、順哉の会社の前にある喫茶店の店員の女性千菜が会社の階段から飛び降り自殺した。順哉の目の前での出来事であり順哉は非常にショックを受ける。そして喫茶店には自殺の直前にニセの注文で10人前のコーヒーを順哉の部署に依頼するという電話が入っていたという。自殺との関係は不明だったが、誰がそんなことをしたのか、順哉は同僚にも不信感を抱くが犯人はわからない。

順哉には人に秘密にしている性癖がある。自分の中に女性がいるというのだ。その女性との出会いのために自宅とは別に家族にも秘密でアパートを借りている。千菜が死んだ後、そのアパートで出会う夢の上での女性は千菜となり、妄想の中で千菜と出会うことになった。

雑誌での取材で、アッシジで出会った美雪は北海道で森末村で酪農をして、登校拒否の生徒たちを受け入れていることを知る。北海道出張の折に森末村を訪れる順哉、美雪は順哉の正体を見抜いているのか否か。美雪は順哉との再会を約束して順哉は東京に帰る。

宮本輝のストーリーには度々登場するエピソード。人間が持って生まれるものはなにか。「容貌、性格、体力、才能、運」人間の差異は結局この五つに収斂されるという。人生の後悔において悩みをいつまでも引きずるより、やろうと思うことをやればいいという。

順哉が北海道出張の折に立ち寄った網走刑務所、観光客向けの石碑に次のような字が掘ってあった。「私の手は厳しいが、心は愛に満ちている」なんて嫌な言葉だろう、と順哉は思った。こんなに傲慢な言葉はない、胸糞が悪い、人間を裁ける人間なんていないはずだ。

美雪がアッシジで池に睡蓮を植えたとき、その池にいた金魚が死んでしまったという。睡蓮の花は仏教では「因果倶時」という譬喩の象徴だと。原因が生じたときには結果もそこに生じているというのだ。蓮の花が咲く瞬間を見ればどうして蓮が因果倶時だか分かるだろうと美雪は順哉に言う。そして自分が植えた睡蓮が金魚の死の原因だったのかと、美雪は嫌な気持ちになる。ここまでが上巻。
睡蓮の長いまどろみ(上) (文春文庫)
睡蓮の長いまどろみ(下) (文春文庫)
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