俳諧は、遠くは和歌、その後連歌を経て江戸時代に文芸として隆盛を極めた。江戸時代の文化を前期(17世紀)、中期(18世紀)、後期(19世紀)と分けて鑑賞してみる。17世紀の江戸文化といえばまず花開いたのが元禄時代。綱吉の治世で、俳諧では芭蕉が自然と人間を対比しながら、悠久の歴史と人の人生の儚さを詠む。「静けさや岩に染み入る蝉の声」「夏草や兵が夢の跡」「荒海や佐渡によこたふ天の河」。同時代には西鶴の浮世草子、人形浄瑠璃の近松門左衛門が人情と義理の間に立たされる人間の営みを描いた。
18世紀になると吉宗の治世は享保の改革、田沼意次の経済対策、松平定信の寛政の改革など社会変革があり、飢饉や災害も相次いだ。画家としても才能を発揮した与謝蕪村は俳諧をより耽美的、叙情的なものに昇華。「牡丹散りてうちかさなりぬ二三片」「菜の花や月は東に日は西に」。ほぼ同時代には雨月物語の上田秋成、鋭利な批判精神に基づいた洒脱な戯作を多数書いた山東京伝が世に出た。
19世紀になると、文化文政期、そして天保の改革の時代へと向かう中で、都市生活が発達し庶民的な文化が人々の間に浸透。小林一茶はこの時代の代表的俳人となり、大衆的な要素が強い。人間的な生き様をより卑俗的なレベルから捉えようとする強かな視線が感じられる。「「痩蛙負けるな一茶これにあり」。40を過ぎてもなお結婚もできなかった一茶本人を自嘲的に捉えている。「是がまあつひのすみかか雪五尺」「雪ちるやきのふは見えぬ借家札」「雪とけて村いっぱいの子ども哉」同時代には式亭三馬、十返舎一九、為永春水、滝沢馬琴などが庶民の人気を博した。
本書では、「おくのほそみち」全文、芭蕉、蕪村、一茶の名句を紹介する。本書内容は以上。