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意思による楽観のための読書日記

白野真澄はしょうがない 奥田亜希子 ***

白野真澄というなんだか少し不器用な人ばかりが主人公の5篇の短編小説。

福岡の片田舎で助産婦をしている真澄には東京でモデルをしている自慢の妹佳織がいる。佳織は昔から外交的で美人なので周りからちやほやされて、高校卒業と同時に東京に行ってしまった。東京で結婚もしていて、独身の真澄とは遠く離れた世界に行ってしまった気がするが、佳織は姉の真澄が大好き。佳織は、福岡に帰ってきたので実家に帰り、早速真澄に一緒に外出しようと誘ってくれた。普段は化粧も真面目にはしない真澄だが、佳織と一緒に出かけるときには、ちゃんとしないとと思う。真澄は30歳になるまでまともにお付き合いした相手も居なかったのが、最近インターネットゲームで知り合った東京に暮らすというヨシくんと仲良くなって、実際には会ったこともないのに夢中になっている。しょっちゅうメッセージを交換していたのが、2週間前から途絶えてしまった。佳織がなにか話したいことがあると言うので、聞いてみると夫と喧嘩して家から出てきてしまったという。それでもきっとそのうちに仲直りして帰っていくことは真澄には分かっている。その佳織にも真澄はヨシくんとのことは打ち明けられない。ヨシくんには妻と子供がいることが2週間前に分かってしまったことを。単なるゲームでの知り合いなのに、夢中になってしまったことに許せない気もするが、それは「不倫」だったのかと、真澄は自分でそう思い込むことにした。だからこそ佳織には言えない気がしていた。真澄は不器用な自分のことを理解してくれる相手はいるのだろうかと不安に思ってしまう。

イラストレーターの白野真澄には妹と両親がいる。両親は見た目と本当の性別が逆転しているというカップルなのだが、世間からの評判など気にせず、編集者と翻訳家として生活し、至って幸せそうな夫婦。妹は今度就職することになるらしい。イラストレーターとしてまだまだ稼ぎが一人前になっていない真澄は実家に暮らしていて肩身が狭い。アルバイトとして勤めていた本屋からは正社員になることを提案されているが、真澄はイラストレーターとの選択を迷っていた。「迷いがあるんなら、迷ったままでも良いんじゃないか」と両親に言われて、真澄は自分の幸せな境遇に気がつく。優柔不断だと思っていた自分の性格だったが、迷いながらの人生も悪くないんじゃゃあないかと真澄は思い始めていた。

夫に奉仕し続ける人生にうんざりしていた白野真澄は離婚することを心に決めていた。そんなとき偶然、自分の両親が離婚したことを知った。驚いた真澄は実家に帰ってみると、父親が掃除も行き届かない家で、一人威張って、「おい、丁度いいところに帰ってきたな、掃除してくれないか。娘が居てよかったよ」などと言っている。呆れた真澄は「自分でやんなさいよ」と言い放って帰ってきた。自分の夫に離婚する意思を伝えるつもりだったが、夫に次回の市民マラソン大会で使いたいからと、買ってきてほしいと頼まれたランニンシューズをわざと1センチ小さめにして渡して、離婚したいと告げた。驚いた夫の顔に続けて、「その小さめの靴を履いて大会に臨むんならもう少し私も我慢してあげる」と言った。夫は、突然の申し出に驚きながら、妻の本気度を知ると、おずおずとその小さめの靴に手を伸ばしていた。

二人のボーイフレンドの間で心揺れる大学生の白野真澄。一人は謹厳実直、もうひとりはお金持ちでイイ男のプレイボーイ。結局選んだのは謹厳実直、当たり前の結論に安心する。

小学4年の白野真澄は男の子。小さいときから白いものしか食べられない拘りがあって、級友たちもその状況に慣れてきているが、それでも友人は少ない。そこに転校生の黒岩翔くんが現れ、真澄と仲良くなる。真澄の性癖に驚きを隠せない翔くんだったが、クラスの合唱大会で二人して合唱委員を勤めたことから仲良くなった。しかし、翔くんの兄のSNS投稿が原因で、またもや引っ越すことになった翔くん家族。せっかく仲良くなったのにと悔やむ真澄の母。しかし、引っ越しても手紙はやり取りできるし、大人になればまた会えると励まし合う二人。不器用な真澄は、自分にも少しは未来が開けてきたように感じていた。

本編は以上。インターネットゲーム、SNS、女性自立、LGBT、アスペルガー症候群などを取り上げた小説で、同じような悩みを持つ人達に勇気や希望を与えるだろう。短編なのでそれぞれのテーマごとの掘り下げが足りない気もするが、女性らしい優しいタッチの短編集で、それぞれの結論に安心できる。一つのテーマに絞った長編が今後の期待。

 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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