陸上に生えている植物の8割には、その根っこに共生している共通する菌根菌がある。それはアーバスキュラー菌根菌。根っこにまとわりつくように見られる丸い白みがかった黄色茶色などの玉、それが菌根菌で、筆者によれば宝石のように美しいとか。菌根菌の樹枝状体(アーバスキュル)は根っこの皮層細胞内に細かく分岐した樹枝状体を形成する。植物は葉っぱにより光合成をして炭素循環を行うのが普通だが、植物の中には光合成をせず葉緑体も持たないのに、菌根菌による栄養補給のみで成り立つものもある。菌従属栄養植物と呼ばれるものであり、スマツソウやラン科植物の仲間には葉っぱを持たない種類もあるという。
こういう世界があることは昔から知られてはいたが、高校教科書に載せられるようになったのは最近のこと。大学入試には2020年に初めて登場した。植物が生きていくために必要な、窒素、リン酸、カリウムの吸収にはこの菌根菌が強く作用し、菌根菌なしの植物は成り立たないという。それは、植物が地球上に発生した4億3千万年前に遡る。
まだ熱かった原始地球の海の中で生命が発生したのが35億年ほど前。地殻変動で生まれた陸地には何も生えておらず土もない。大気の成分は窒素と炭酸ガスで、地上には生物には有害な紫外線が降り注いでいた。海の中では30億年ほども前から微生物シアノバクテリアが発生、CO2を光合成エネルギーで同化して有機物に変換、酸素を発生させ、海中には酸素が行き渡る。その酸素により海中の鉄分が酸化され茶褐色の鉄となり沈殿、鉄鉱石の鉱床となる。余分な酸素は海中から大気へと放出され酸素濃度が上昇、オゾン層が形成され太陽からの紫外線を遮る作用が始まる。海中に生まれた微生物は陸上に上がる準備ができた。
6億年ほど前になると、シアノバクテリア、藻類、菌類の共生体である地衣類が陸地の表面に広がる。その被膜で覆われた陸地の上に、植物が発生を始めたのが4億3千年前。海中では養分とCO2は水から取り込んでいたが、陸上ではCO2は空気から、養分は土から取り込むのが植物だが、土はないので、そこで菌と植物が出会う。菌が蓄積した養分、植物が光合成した有機物、それぞれを共有して共生するという菌と植物の共生、これが菌根菌の始まりだった。
その後4億年前には維管束や根を発達させたシダ類が登場、地上はシダ類の大森林となった。当時の大気には大量のCO2が含まれていたが、光合成により有機物へと変換され続けた。その頃生成された有機物は地上に蓄積されて石炭となる。その時代が石炭紀。そのころ針葉樹の先祖が生まれ、それらの被子植物も菌根菌との共生を前提とする。アーバスキュラー菌根菌が陸上植物の8割と共生するのは進化からみれば必然であった。
松の根元に見られるマツタケも菌根菌共生であり、キノコはすべて菌根菌の胞子をばらまく作用がある。トリュフも同じ菌根菌の仲間であるが、その発生と子孫繁栄の仕組みが明確には分かっていないため、人工的な繁殖ができていない。地球上のあらゆる植物に共通するような菌根菌の研究はまだまだこれからなのである。
アーバスキュラー菌根菌との共生植物のなかで、菌従属栄養に依存する植物は、菌類に炭素源を依存するため、絶滅危惧種となっている物が多い。光合成をしている植物であっても、菌根菌との共生によりエネルギー供給を異種植物感で行うものも多い。つまり地上では競合しながら、根っこ間では菌根菌を通して共生しエネルギー交換をしている。本書内容は以上。
菌根菌と植物の共生状態の解明は、絶滅危惧種の再生や、キノコの養殖、農業における作物、地球環境保全など多くの課題を解決する手段と繋がる可能性を秘めている。菌根菌の研究は物好きな学者の研究内容ではなく、これからの地球環境保全に不可欠な研究であること、初めて知った。多くの人達にこの事実を知ってほしい。