意思による楽観のための読書日記

西欧の東 ミロスラフ・ペンコフ **

ブルガリアという国、首都はソフィア、ヨーグルトで有名、東ヨーロッパで旧ソ連の勢力下にあったが現在はEU加盟国、僕にはこのくらいの知識しかない。場所はバルカン半島にあり、ルーマニア、セルビア、マケドニア、ギリシャ、トルコ、そして黒海とそれぞれ隣接、しかし第二次大戦中はドイツと同盟を組んでいた枢軸国の一つだった。それ以前は隣国と戦争、被支配を繰り返し、中でもオスマン帝国(今のトルコ)には15世紀から500年もの間支配されてきた歴史があり、ブルガリア系以外にもトルコ系住民が約1割、ロマ人(ジプシー)が5%いて、文字はロシア文字として知られるキリル文字を使う。本書はそのオスマン帝国の支配から抜け出し、その後ソ連支配下を経てEU加盟に至る数十年にあった物語集であり、西欧社会へのあこがれと昔のほうがマシだったという思い、そして支配者への恨みで覆われている。読み進むのが苦しいほどの場面も多い。

表題になった「西欧の東」、セルビアとの国境近くで生まれ育った主人公は、西側とのつながりが深い川向うのセルビアにあるリーバイスやロック音楽に憧れる。しかし、ソ連支配下のブルガリア側にはそんな自由も商品もないなかでのラブストーリーが生まれる。夜の暗闇に紛れて川を渡って会う若い幼馴染の女性がいて、小さなプレゼントを交換する。そんな二人が何度も川を渡り、セルビア側にいる女性が妊娠、川をまたがった村の二人は親に告白、結婚することになるが、婚礼の前夜、どうしても彼女に会いたくなった主人公が女性に会うために川を渡ろうとしたところを、国境警備兵に射殺されてしまう。「レーニン買います」ではアメリカへの留学の夢が叶った若者の話、しかしその祖父は筋金入りの共産主義者で、若者は祖父との電話で祖父に対する反発の中にも理解を深めていく。「手紙」では14歳のマリアは祖母と二人暮らし、マリアには双子の妹がいて障害があるため施設に入っている。母は働きに出ていて年に一度くらいしか電話で話しできない。マリアは隣人のイギリス人夫妻と仲良くなり、金品をこっそり盗んでは売り払って糊口を凌ぐ生活。そんなとき、施設に入っていた妹から妊娠したと告げられる。イギリス人から千ドルを借りたマリアは施設に行くふりをして千ドルを手に逃げ出す。

「ユキとの写真」はアメリカで知り合った日本人のユキと結婚した主人公のブルガリア人の若者、不妊治療のためブルガリアに帰り実家に滞在する。ユキは大好きなカメラを持っていたので、村中の人から写真をとってほしいと頼まれることになる。ある日二人は借りた車で運転中、自転車に乗ったロマ人の子供をはねてしまう。子供は元気に起き上がり家に帰るが、その夜、その子の父親が子供を叱って叩いたため、次の朝には死んでいたという。それを知ったユキと若者は自分たちの責任を感じてしまう。ロマ人の家族はそんなこととは知らず、死んだ息子の葬儀に使う写真を撮ってほしいとユキに頼んできた。どうする、ユキは悩むがこの依頼は断りにくい。異文化との接点、被差別者によるさらなる差別、そこにたまたま出くわしてしまう日本人、という複雑な状況である。2018年日ブルガリア合作の映画になったという。

その他なんでも記憶してしまう特技を持った子供で一儲けしようとする「十字架泥棒」、トルコ系住民のムスリム系の苗字をブルガリアの名前に換えさせられる「夜の地平線」、グリーンカードの抽選にあたりアメリカに移住した夫婦がお金持ちの医師に救われるが、その医師と再婚してしまう妻と娘、別れた夫は娘と月に一度会うたびにその絆を保とうとしてブルガリアの歴史を組み込んだ長い物語を娘に伝えようとする。

ヨーグルトでしかその名前を知らない国の近代史、遠い国のお話と読み進むうちに「ユキとの写真」で一気に距離が近づいた。

西欧の東 (エクス・リブリス)


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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