阿刀田さんの短編は印象派ともいえる。絶品だと思ったのが最後の花あらし、夫に先立たれた妻の純愛物語。笑顔がすてきだった夫が40そこそこで先立ってしまう。桜が好きだといった夫の言葉通り、八王子の先にある夫の実家のそばにある山を訪れた妻の目に入ったのは全山桜が満開で夫の笑顔に見えた景色、どんでん返しも引っかけもない作品だが印象に残る。白い蟹は逆にロマノフ王朝の最後にまつわるアスタナシア伝説を題材にしたお話。こちらは至る所に最後の印象を作り出すために仕掛けに仕掛けてある。横浜にある美術館学芸員の主人公彩子、パリ留学中に知り合ったロシア人ライサを頼ってエカテリンブルグの修道院を訪問、途中車でひいてしまった動物の血の色、食べてはき出したカニサラダ大きな蜘蛛と白指蟹。こうした伏線を最後の落ちにつなげている、阿刀田魔術である。
花あらし (新潮文庫)
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