意思による楽観のための読書日記

空夜 帚木蓬生 ****

筆者の空山を先に読んでいた。その前に起きた話。登場人物や景色が似ていて読んだことがあるなとの思いがあったが、産業廃棄物の問題に発展する「空山」に続く九州の片田舎での話である。

ワインを作る菊村の家に育った真紀は父勇造がすすめる結婚に反対できず、趣味が合いそうにない誠と結婚し、娘の伽奈がいる。三十歳を過ぎたばかりの真紀は自分の人生に他の選択肢があったのではないかと考えている。夫の誠はギャンブル好きで、借金をつくっては家族を困らせている。誠との結婚を進めた勇造は誠がつくってしまう借金をなんとか面倒みているがもう愛想が尽きかけている。

もう一人の主人公は真紀よりも10歳程度年上の俊子、了平という夫がいるがこちらも全くそりが合わず、10歳年下の岩崎達士と付き合っている。俊子は自分の子供たちが育ったら独り立ちできるように「ジャルダン・ダクリマシオン」というブティックを町で経営している。

物語は九州の小さな五条村が舞台、真紀の住むその村に真紀の中学時代の同級生山岡慎一が医師として赴任してきた。母と二人暮らし、真紀は慎一に心が惹かれる。五条村を取り巻く美しい自然が描かれる。菅生連山、桜、菖蒲園、鯉釣り、蛍狩り、夏祭りには慎一のアイデアで薪能を催すことになる。出し物は「松風」、慎一が真紀のぜひ見て欲しいという出し物、松風では女性の恋する情念が表現される。真紀は新一の思いを知る。

俊子と達士の逢瀬も様々な場所を訪れる。コスモスの咲く公園、薪能が行われる清泉神社、そして真紀が初めて自宅のワイン農園で開いたワイン祭り、露天風呂、そして紅葉の季節には櫨の木の下での紅葉狩りである。元旦には太宰府天満宮、蝋梅、梅と一年の四季の移ろいと草花が真紀と俊子の暮らしと恋の行方を彩る。

自由に生きることを決意している俊子ではあったが、達士は不慮の事故で死んでしまう。真紀は慎一に愛を打ち明け二人は結ばれる。

菊村家には真紀の祖母であるタカと飼い犬のカブトがいる。そしてワイン造り職人である潜爺さん、慎一と真紀の中学時代の小川先生など魅力的な登場人物がでてくる。四季の花と五条村の自然とともに、田舎に生きている素朴で正直な人たちが活き活きと描かれていて、真紀と俊子のそれぞれの夫たちのだらしなさを綺麗に覆い隠すようである。
空夜 (講談社文庫)
空山 (講談社文庫)
読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事