意思による楽観のための読書日記

「分かち合い」の経済学 神野直彦 ***

アングロサクションの経済モデルを追求する日本は、スウェーデン型の分かち合い経済を目指すべきだ、という筆者の主張。キーワードはスウェーデン語のomsorg(オムソーリ)で社会サービスを意味するが、原義は悲しみの分かち合いなのだそうだ。そして優しさを与えあうのがスウェーデン型の社会経済。子供手当のように現金を配布するよりは出産支援、育児支援の社会の仕組みに予算を使う方が分かち合い経済なのである。

近代から現代までの経済を振り返ってみている。景気循環、短期から長期のものがある。在庫循環で3-4年といわれるキッチン循環、10年周期の設備投資によるジュグラー循環、長期50年のコンドラチェフ循環がある。19世紀のイギリスでは1825、1836、1847、1857、1866年と10年ごとに恐慌が発生した。好況の後には必ず不況がくるのである。この19世紀はパックスブリタニカとイギリス主導経済といわれる。1856年に発明されたベッセーマー製鋼炉により銑鉄から効率よく鋼鉄を生産できるようになり産業構造が大きく変わったが、鉄道が国中に敷かれて不況になる。軍艦の建造競争から好況に、そして第一次対戦終了でバブルははじける。パックスブリタニカでは金本位制が採用されるが、1919年の第一次大戦からはイギリスの国力が相対的に低下、1929年の世界恐慌と第二次世界大戦を経てアメリカの時代へと移り変わる。ちなみに、1929年の世界恐慌は短期、中期、長期の循環が重なったといわれる。

パックスアメリカーナは1942年のブレトンウッズ体制で確立されるが、1973年が解体の始まりだった。9.11事件と当時いわれたチリのアジェンデ政権のCIAによる崩壊が最初の事件である。アジェンデ政権は反市場主義を旗頭に民衆の支持を集めていたが、アメリカの陰謀で惨殺された。そして同じ1973年石油ショック、原油価格は1バレル3ドルから11.6ドルに跳ね上がった。そしてブレトンウッズ体制の崩壊、ニクソン政権によりドルは1971年に金本位制を終了、1973年固定相場制から変動相場制に移行した。

このあと1979年イギリスはサッチャー首相が、アメリカではレーガン大統領が、日本は中曽根首相が新市場主義といわれる小さな政府による福祉国家を否定した市場競争至上主義を進めた。はたして小さな政府は正しい選択なのであろうか。

社会の不平等を表すジニ係数、1.0が完全不平等、0が完全平等である。1995年のジニ係数、政府による税金や福祉による再配布の前の係数はスウェーデン0.487、アメリカ0.455、日本0.340であるが、再配布後はそれぞれ0.230、0.344、0.265となり日本はスウェーデンより不平等となる。日本の政府による再配布は先進国最低の数値となっている。日本はアメリカと同様再配布は老齢年金と医療保障に偏っている。GDP比率でみてこの二つはスウェーデンと変わらないが、スウェーデンでは児童手当、介護サービス、育児サービスが手厚く一桁違うサービスを国民は享受できる。これがオムソーリである。

ここに再配布のパラドックスといわれる事実がある。貧困者に限定した現金給付を手厚くればするほど相対的貧困率は増大するという。アメリカ、イギリスというアングロサクソン両国にはまさにこの法則が当てはまる。ただし、日本は例外で、現金給付は少なく、しかし貧困比率はたかい。貧困者に現金を給付することを垂直的再分配、貧困者に限定せず出産や育児、介護などの福祉サービスを提供することを水平的再分配と定義する。そうすると実際には水平的再分配を行っているスウェーデンなどの国で貧困率が少ない。そして政府財政の健全性もなぜか大きな政府のはずのスウェーデンが日本やアメリカよりも優れている。2000年から2006年までのOECDの数値より、GDPに比較した社会的支出の割合はスウェーデンで29.8%、アメリカ14.8%、日本16.9%、ジニ係数はそれぞれ0.243、0.357、0.314、貧困率は5.3%、17.1%、15.3%、そして財政収支は1.4%、-2.8%、-6.7%である。

ポスト工業化社会、知識型社会でのモデルはアングロサクソンではなくスウェーデン型の分かち合い社会である、という筆者の主張である。

「分かち合い」の経済学 (岩波新書)
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