意思による楽観のための読書日記

流氷への旅 渡辺淳一 **

1970年代の匂いがする、24才の女性が紋別で流氷の研究をする男に惹かれる話。24才の女性がここまで一途に男を思うのか、時代のせいなのか、現在の読者なら違和感たっぷりの恋愛小説である。24才にして大学卒業後花嫁修業ということで、自宅で暮らしている一人娘の竹内美砂(みさご)が主人公。

花嫁修業に息が詰まって、思い立って流氷が見たくなり訪れたのが紋別、知り合いの明峯教授に紹介してもらったのは、紋別にある流氷研究所の研究員主任紙谷。いきなりの訪問ではあったが、お願いして流氷を見せてもらった美砂は紙谷に惹かれる。紙谷には織部という親友がいて、同じ女性杏子を好きになり、織部が杏子と結婚する事になった後、織部と紙谷は流氷研究のため流氷に乗って織部だけが転落して死んでしまう、という事件が昔あったことを聞かされる美砂。

帰りの札幌で明峯教授宅に立ち寄り流氷の話をする。教授は「私の秘書にでもならないか」などと言ってくれるので、美砂はその気になる。東京に帰っても紙谷のことが気になるが、紙谷からの連絡は一切ない。数カ月後、紙谷が学会で東京に来ることを紙谷の同僚が知らせてくれる。美砂は会いたくてたまらずホテルに電話、食事をする。紙谷はあっさりと北海道に帰るが、羽田まで美砂は見送りに行く。結構積極的な女性なのだ。その後も紙谷からの連絡はない。美砂は紋別を再訪問することにする。再訪問した美砂を流氷研究所の紙谷とその同僚たちは歓迎、鍋を囲んでのパーティを開いてくれる。その夜、紙谷と二人になった時、美砂は紙谷に告白をする。帰りに明峯教授宅に立ち寄った美砂は秘書にして欲しい、と訴え、札幌に住むアパートも決めてしまう。

その後、明峯教授の秘書となり勤めを始める美砂の前に、教授の秘書を昔していた杏子が現れる。美砂は杏子に過去のことを聞いてみたくなり、紙谷との出会いのことなどを聞き出そうとする。杏子はすでに別の男性と結婚をしていて、紙谷とは関係がないはずなのだが、杏子はなにか口ごもる。杏子の夫婦生活はうまくいっていないようなのだ。

紙谷は夏の北極に流氷研究の旅にでることになり、その前に札幌に出てきて札幌に住んでいる美砂のアパートで結ばれる。北極で紙谷は小さいクレバスの転落、足の骨を折る重傷を負い日本に帰国、札幌の病院の入院、美砂は入院した紙谷の面倒をみることになり、二人の関係は深まる。退院した紙谷は紋別に帰るが、その後杏子の行方がわからなくなり、紋別に行っていることがわかる。杏子は今でも紙谷が忘れられなかったのだ。美砂はたまらず杏子を追うように紋別を訪れ、紙谷に自分との愛を迫る。

時代的には携帯がないので、手紙が来なければじりじりする、東京から紋別への電話は長距離電話なのでかけるのも気が引ける、その割には同じ年に2回も東京から紋別にまで女性一人が旅をする、札幌にいる両親の知り合いであり中のいい知人の北海道大学教授を頼って、秘書として札幌に就職してしまう。なんとも気の強い、お嬢さん育ちを地で行くような、しかし男性が考える女性像を演じてしまう美砂。70年代ならこんな感じでも小説は成り立ったのかと感じる。流氷は紙谷という男性を象徴するような存在なのか。氷河から切り放たれた流氷は海流の流れに乗ってオホーツク海を南に下って紋別や知床に着く。春になるとまた遠くに去っていく。それを追いかけるのが情熱的な女性美砂。気まぐれな男性を思いつめた女性が追いかける、渡辺淳一が描く恋愛小説は男性側の妄想的理想像なのか。
流氷への旅 (集英社文庫)

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