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意思による楽観のための読書日記

日本の方言地図 徳川宗賢 ***

本書が依拠したのは1957-1965年にかけて全国実地調査を行い調べ上げた「日本言語地図」であり、日本全国2400箇所、研究者が現地に赴いて土地の方々から直接方言を聞き取る形で調査されたもの。地図は合計300面あったというが、本書ではそのうち50面を選択、略図化して掲載したという。当時聞き取りをした対象者は主に明治20年以降生まれの男性に聞き取りし、中には1903年以前出生の高齢者にも聞き取りをした例もある。本書ではその中から、方言分布、方言の単語、方言流動の変遷、日本語の歴史などについても考察した。1979年発刊であり、文献としての残りにくい話し言葉を記録していることから貴重な方言地図である。

柳田國男が有名にした蝸牛考でも取り上げられた「カタツムリ」の方言、デンデンムシ、マイマイ、ツブラメ、ツノダシ、ナメクジなどの全国分布を本書でも調べ上げている。大まかに言えばデンデンムシが近畿6県と徳島香川に分布し、カタツムリが東海北陸高知愛媛山口と分布、マイマイが広島島根鳥取福岡千葉茨城、ナメクジは佐賀熊本栃木福島宮城渡島半島、ツブラメは南九州、ツノダシは北東北薩摩、琉球先島諸島ではツンナメ、ツダミ。見事に京都を中心に同心円を描くように全国に分布する。


一方「居る」については、糸魚川静岡構造線に沿ってほぼ東西に分かれて、西がオル、東がイル、一部紀州がアル、南九州がオッ、岩手山県宮城の一部にイタ、琉球先島諸島ではウン、ブンと概ね東西に分かれる。カタツムリのような分布をABA分布、居るの例をAB分布と名付けた。


ABA分布では古い言い方は周辺に残り、その時点での文化の中心から新しい言い方が取り入れられる、という仮説。居るの場合には、上代のイルの原型「ゐる」やオルの原型である「ヲる」は、いずれも「立つ」に対する「坐る」が原義で「ヲり」は「ゐあり」の変化で、居る動作を継続する意。自己の動作ならば卑下謙譲、他人の動作なら蔑視の意がこもるという。地域差が生じた理由は、意味、用法の変化の方向が地域差、時代差を持って変化したことによると考えられる。

本書に掲載されるのは、その他に「いえ(家)」「おんな(女)」「お手玉」「しあさって」「凍る」「小さいと細かい、細い」「かぼちゃ」「さつまいも」「じゃがいも」「とうもろこし」「まな板」「せともの」「しもやけ」「もうもう(牛の鳴き声)」「かたぐるま」「恐ろしい」「地震」「おととい」「酸っぱい」「嘘を付く」「ものもらい」「蜘蛛の糸」「くすりゆび」「トンボ」「ニオイ」「氷柱」「たこ」「シェ(音)」「モグラ」「アザとホクロ」「とげ」「うろこ」「梅雨」「とうがらし」「塩辛い」「まぶしい」「チュンチュン(雀の鳴き声)」「つむじ風」「うるち米」「ドクダミ」「ガ行の子音」。

1869年の東京遷都により京都から東京へと文化の中心が移動するとともに、言葉の発信源も西から東へと動いたと考えられるが、発信される内容によっては、その中心は変化する事がある。また明治維新時、標準語を定めるにあたっては、江戸言葉を採用するのではなく、関東方言を基盤とするも上品な表現と考えられる上方の言葉の要素を一部取り入れたた。「お寒うございます」のような形容表現では上方のウ音便が採用され、「主人は奥座敷の方に居ります」では「オル」の形が丁寧な言い方として取り入れられた。恐ろしい、捨てる、ウロコ、ツユ(梅雨)、辛いなどは長州や西日本の言葉が取り入れられた。また標準語として現在でも流動的なものには、ガ行子音の鼻濁音、日本(ニッポン、ニホン)、入口(イリクチ、イリグチ)、論じると論ずる、任してと任せて、水が飲みたいと水を飲みたいなどは音声的、文法的にも不確定なものがある。本書内容は以上。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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