意思による楽観のための読書日記

東京アウトサイダーズ ロバート・ホワイティング ***

東京アンダーワールド」の続編、一部には根強いファンがいると思われるホワイティングが、取材で集めたネタをもう一度俎上に載せて料理した、とも言える一冊。中身は目次に従って説明すると、戦後日本で荒稼ぎした外国人を紹介した第一章「金儲けの達人」。占領軍がいる日本、特に東京でGI(Government Issue(政府支給品))の略というアメリカ軍兵士たちの振る舞いが戦後日本人に反米感情を抱かせた第二章「GI 反米旋風」。手軽に小金を稼げるアルバイトを素人の日本人女性を集めてセックスビジネスを手がけるガイジンを紹介する第三章「売春婦」。戦後のゴタゴタ、ドサクサから高度成長期の日本で日本人や政府高官までを相手に濡れ手で粟の大儲けをした外国人たちを紹介した第4章「詐欺師」。日本に来れば、金髪の欧米人が大好きなスケベ日本人から楽して金儲けができるよ、といわれて次々に来日したガイジン女性たちを紹介。また学生でも金髪の白人なら座っているだけでも90日の観光ビザで小金が稼げると言われ、数多くの事件に巻き込まれる若い女性たちを紹介した第5章「ホステス」。日本に巣食うヤクザ、彼らは日本に進出しようとする外国資本から見るととんでもない障害物にうつる。そうしたヤクザたちをなぜか見て見ぬふりする日本警察。その不条理を解説する第6章「暴力団」、そしてわるいやつらばかりで書いている本人も気分が悪くなると気分直しに日本が好きになり文化摩擦軽減に努力し日本の良さを欧米に紹介したいいガイジンを紹介した第7章「いいガイジン」。

「金儲けの達人」で紹介されるのがウォーリー・ゲイダというGI、パイロット時代にためた5万ドルを元手に占領下の日本でナイトクラブ「ゴールデンゲイト」を開いた。フィリピン人ダンサーによるショーは大人気を博し映画スターや大物政治家などが客に勢揃いした。火事にあってもさらに復活し、日本にストリップショーを紹介した男にもなった。世界的女優のエヴァ・ガードナーの恋人にもなったゲイダはその後10年以上に渡り大金を稼いだが、事業に失敗、1982年にはフィリピンへ出奔、1992年に迎えた晩年はフィリピン人妻に有り金を持ち逃げされ惨めだったという。最後はトラックにはねられトン死した。渋谷のレストラン「マノス」を経営していたのはCIAの前身でOSSと呼ばれた諜報機関で諜報部員をしていたチャーリー・マノス。1958年に回転したマノスはGI達が客になり繁盛した。マノスはロシア料理で有名になり店内で売春婦が客引きすることも黙認されたため、そうした女達を目当てに押し寄せる客で溢れかえったという。そういえば渋谷にマノスというレストランがあった。

GIたちの評判を最大限に落としたのはジラード事件で有名になった21歳のGIジラード、1957年1月、射撃場に薬莢拾いに来ていた46歳の日本人女性坂井なかを面白半分に射殺してしまい裁判にかけられた。身柄の引き渡しとどちらの国の裁判を受けさせるかで日米両政府は揉めに揉めた。そのプロセスで日本人の反米感情に火がついた。これは私自身も高校生時代に政治経済の先生に教えられて強く記憶に残っている。本書ではジラードには台湾生まれの日本人の末山ハルという7歳年上の恋人がいて、日本での判決は禁錮3年、執行猶予4年という軽い判決、裁判を終えてアメリカに帰って、さらにアメリカでも白い目で見られ続けたジラードを支えた。しかしこのジラード事件はその後に続く数多くの米軍基地反対運動のきっかけとなったことで大いに記憶される出来事であった。

ダニエルスタインはベトナム戦争の時期、アメリカのブルックリン82分署で問題を起こして退職、日本に来て山王ホテルの近くに「ダニーズ・イン」という小さなレストランを開いた。口コミで女子大生、秘書、暇な主婦をアルバイトとして採用、軽いセックスビジネスを営み始めた。プロの娼婦とヤクザはお断りというのが店の方針、元NYPDの警官という肩書はヤクザを追い払うのに役立った。1万円で若くて感じの良い女性たちと一晩過ごせると評判になり大変繁盛した。店の売上は飲み食い料金だけ、米軍のPXから安く仕入れたウイスキーを客にそこそこの値段で出した。女性たちの上前ははねないという方針にアルバイト女性も客もどんどん集まってきた。

日本人は他人を疑わない、だから詐欺師にとっては天国だという。1983年に来日した女性、ジェナヴィーヴ・ジスカールデスタンは自称ジャーナリスト、フランス大統領の義理の妹という触れ込みで東京でひらかれる数多くのパーティですぐに有名人になった。ホテルオークラを定宿にした彼女は到着してまもなく部屋で盗難にあったと騒ぎ、現金900万円と85万円相当の宝石を盗まれたと主張、オークラ経営陣は評判を落としたくないので盗まれたという金額を弁償、盗難にあった日以降の宿泊料を無料にするという対応をした。しかし警視庁が身元を調査すると、元大統領のいとこと2ヶ月間の結婚生活はあるものの、苗字は不正使用、ジャーナリストの肩書も嘘っぱち、詐欺の常習犯であることがわかったため国外うち法されたが、オークラが弁償したお金は戻ってこなかった。

日本のホステス稼業は大変厳しい。女性は客である男性の虚栄心や甘えた心を満たす、時には涙まで拭いてあげることも必要になる。70-80年台に東京一エレガントと言われたクラブ「あぽろン」でのホステス心得は次のとおりであった。1. 身だしなみ、ドレスはいつも綺麗に 2. 微笑みを絶やさず 3. 客を褒める 4. 客の話に興味を持つ 5. 再来店してくれる客の好みの酒、歌を記憶し退出時にはその曲を演奏する 6. タバコには火をつけグラスには酒を注ぐ 7. 一見頭が悪そうな女で実は賢いのが理想的な女 こんな日本のクラブで立派に務まるようなガイジンホステスはいなかった。しかしそんな日本のクラブ文化に風穴を開けたのがアイルランド系オーストラリア人のマギー、六本木で超売れっ子のホステスになった。マギーは自分の客が来るとお酒をただで振る舞った。それでもそんな客が新たな客を呼んで店は繁盛するという良い回転だったが、日本人のオーナーと意見が対立しその店を辞める。そしてその店から歩いて1分のところに開店したのが「マギーズリベンジ」、同じやり方で店はまたまた大繁盛した。マギーがやったのは日本人ホステスの心得からしたらとんでもないこと、客のネクタイをはさみでちょん切るのだ。常連には各国大使館員、伊丹十三、西武の東尾、阪神のバース、巨人のクロマティ、中畑、1988年まで店は続いた。この話は聞いたことがある。赤坂にあった勤務先からほど近いこの店は有名だった。90日の観光ビザで日本に出稼ぎに来る若い欧米人女性が増えたのは1980年台、最後は殺されてしまう20歳のイギリス人女性ルーシー・ブラックマンが来日したのもこの頃だった。座ってお酒を飲んでにっこり笑っていれば毎日数万円ももらえるアルバイト、ルーシーは夢中になった。そして客の一人に殺害されて行方不明になる。イギリスの両親は日本に娘を探しに来たがなんの手がかりも証拠もない行方不明の外国人捜査になど警察は取り合ってくれない。そこでイギリスの首相が来日するときに直訴、ようやく捜査が始まり殺人事件が発覚した。これも当時さんざん報道されたので覚えている。犯人は48歳の織原という不動産会社社長。こうした事件では被害者は殺されない場合にも不法滞在で摘発されるのを恐れて警察に届けないことが多い、そのことを知っている男たちの餌食になるのだ。被害者はアジア人が最も多く、しかし表面化せず、たまたまイギリス人女性が被害者になり表面化した。こうした日本の状況は国連の人権委員会でも問題になり、女性人権保護、外国人被害者保護などの改善勧告が出されるまでになる。

筆者のこうした情報網は一体どこから来ているのか。あとがきでそうした取材源を明かしている。登場する本人はもちろん、日本人の人脈は政治家からジャーナリスト、スポーツ関係など非常に幅広い。東京アンダーワールドは英語で書かれたものがアメリカでまず出版されて日本語に翻訳されて出されたが、本書は英語で書かれた原稿を日本語訳した本が日本でまず発刊された。登場人物の殆どは実名で書かれているので、ここまで書いていいのかと思う箇所もあるが、どうしても困るケースでは「ミスターT」などというのもある。いずれにしても大変な取材範囲であり取材期間である。こうした裏情報が好きな筋にはたまらない著作であるが、どうしてこんなにダーティーな部分に目を向けるのかと感じる読者もいると思う。ダーティーな部分にこそ本質が宿る、というところに筆者の信念がありそうに思う。しかし私はホワイティングの野球関係の著作がいいと思う。それは筆者が野球が好き、そのことが読んでいてよく分かるから。次は「野茂」の本を読んでみて、ホワイティング読みの中締めとする。


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