フランスの田舎町、サン・トルワンでの1944-45年の出来事を描いた小説。時代背景は、ドイツによるフランス占領時代で、北部はナチス政権下、南部はナチス傀儡政権と言われたビシー政権下である。その頃、連合国軍は反撃を始めていて、ノルマンディー上陸作戦が始まっていたため、フランス南部にも駐留していたドイツ軍のSS部隊が、連合国軍を迎え撃つために北上を始めていた。南部地域で活動するレジスタンスは小規模な反抗を試みていて、移動するドイツ軍に奇襲をかけていたため、ドイツ軍としては各村に潜んでいる可能性があるレジスタンスは見つけ次第殺害するのが常であった。
フランス南部の村には若者はおらず、いるのは女性と子供、年寄りである。若者がいるとすれば、隠れて活動するレジスタンスか、障害者、逃れてきた外国人であった。匿っていることをSSに知られると、村人たちに被害が及ぶ可能性があるし、それでもレジスタンスの若者を応援したい人たちも多くいた。サン・トルワンにはカソリックのステファン神父がいて、地下室にモーリスと名乗るレジスタンスを匿っていた。モーリスは、会計士で、息子が戦死したあとは飲んだくれになっているグザビエの妻、クリスティーヌと情を通じている。今は村人たちはなんとなくそのモーリスの存在を感じていたが、誰もそれを表立っては口に出さなかった。ある日、モーリスが殺害され、犯人は分からない。ステファン神父は、隠蔽が露呈するのを恐れていた村人を疑い、死体を隣町の井戸に捨てる。その時、それをオランダ人でSSの制服を着ている敗残兵ブラムに見つかる。今度はブラムを匿うことになるステファン神父。
そんなとき、SS部隊のベルトラム中佐が村を訪れ、レジスタンスがいるはずだ、正直に言え、と村人たちに迫る。ベルトラム中佐は村人たちの中から任意に選んだ人間を殺害し始めた。村長のギャスパーは、村人たちが殺されていくのを止められない。村人たちは村長を裏切り者と思ってしまう。このままではもっと多くの人々が殺されると思った神父は、自分が隠れていたモーリスを殺害した、と偽りの証言をする。ベルトラムは村人たちには疑念を抱いたが、神父の証言を信じて村を去る。村人は神父を尊敬し、村長を軽蔑することになる。
ステファンは、いつも神父の身の回りの世話をしてくれている墓守のフレデリックの娘マリアンヌが、ブラウと情を通じていることを知って、これが村人たちに知れたら大変と二人を逃がす。しかし逃亡先で見つかってしまったブラウは殺され、それを儚んだマリアンヌも自殺する。
1945年になってベルリンが陥落、ヒットラーが自殺して戦争が終わる。村人たちは、裏切り者の村長をリンチで殺害してしまう。ステファン神父はマリアンヌもブラウも逃亡先で死んでしまったことを知る。死んだモーリスは写真を持っていた。写真の裏書きには待ち人の存在が示唆されていた。待っている人がいるのに、待ち人は死んでしまっている、という事実を知らせたほうがいいと思った神父は、フレデリックを連れて、死んでしまったモーリスが持っていた写真を元に、そこに写っていた場所でモーリスを待っているという女性を探しに、戦争中は中立国だったポルトガルに向かう。女性は見つかるが、新たなパートナーとモーリスそっくりの子供とともに新たな生活を始めている。
旅先で、フレデリックは、モーリスが、実は別のSSの兵隊に殺されたこと、そしてそのSSの兵隊は自分が殺害したことをステファン神父に告白する。なぜ言わなかったのか、と迫るステファン神父に、フレデリックは、だって聞かなかったじゃないか、と答える。フレデリックが耳が聞こえない、口唇読話と手話でのコミュニケーションしか取れないから、犯行には関係ないと思いこんでいたことをステファン神父は思い出す。さらに、フレデリックの娘は自分の本当の子供ではなかったことを告白する。その娘を助けるために、フレデリックは犯行に及んだのだ。前に亡くなっていた妻をフレデリックは愛していたのである。
シンプルな筋書きの中に、複雑に絡み合う小さな村の住人たちにとっての戦争の不条理を描いた、アガサ・クリスティミステリー賞受賞作。