意思による楽観のための読書日記

フェイク 楡周平 ***

恨みがある人間に仕返しするために5億円を無駄に使わせる方法、ノミ屋、競輪、FⅡレース、大穴車券などを使ってそれを実現し、自分も少々儲けることができる。

主人公の岩崎陽一は22歳の若者、冴えない三流大学を卒業したものの一流企業などには職を得られず、就職したのは銀座の一流クラブのフロアーボーイ、売れっ子ホステスが一晩で数百万円稼ぐのに比べて月給15万円の身分である。そのクラブに別のクラブから引きぬかれて26歳という美人雇われママ摩耶がやってきた。大手製薬会社の山野社長、貿易会社経営者真壁、ヤミ金融経営者の横山などという最上の客が来店、一晩で100万円以上を店に落としていく。店の取り分は売上の16%、84%を店のオーナーとホステスが折半する、というのがこの店のルール。客は最初についたホステスの顧客となり、その客がその店に来る場合にはそのホステスが出勤していようといまいとそのホステスの売上になり42%の売上を手にする、というのが銀座での「永久指名」ルール。同伴を週に2回は行い、客を店に連れてくるのも歩合で働くホステスの義務、同伴出勤は食事をせずに、来店前に電話を受けて店の前で待ち合わせをして入店してもそれは同伴、事前に電話をもらうことは重要なのである。

陽一は摩耶のお抱え運転手に指名され、送り迎えで一日1万円の余録を得ることになり、大喜びする。摩耶は週に2-3回の出勤であるが、月にすれば12-13万にはなる。おまけに空いている日には送迎に使っているベンツを自由に使ってもいいという虫のいい取り決めである。陽一は大学時代から付き合っているさくらをデートに誘い、ベンツでドライブ、銀座の勤めも悪くないことを自慢する。さくらは銀座のホステスという職業に興味を示す。さくらの家は印刷業をしているが零細で経営に行き詰っていたのである。

さくらは陽一に摩耶に紹介して欲しいと頼み込み、摩耶はさくらと面談、お店にアルバイトとして雇うことになる。摩耶はさくらを妹分と自分の客筋にも紹介してもり立ててやる。真壁の輸入ワインのラベル印刷の仕事も回してやり、さくらの父親の印刷業は息を吹き返す。

摩耶は陽一に、店で販売するワインの偽物とのすり替えを提案する。ワインの卸をしている真壁社長から、安く仕入れたカリフォルニアワインのラベルを張り替え、店の本物とすり替えると、その差額で相当な稼ぎが得られるという話。摩耶は一回6万でどうかと陽一に持ちかけ、カネに目が眩んだ陽一はその話に乗ってしまう。陽一の大学時代からの親友で酒屋をやっている謙介にこの話を教えて巻き込む。陽一と謙介は数百万円の余剰収入を得るようになり、謙介はもともとハマりかかっていた競輪や賭博麻雀にのめりこんでしまい多額の借金を作る。陽一は一部を用立ててやるが、高利の金貸しからも借金を作った謙介はヤクザに追われることになってしまう。運の悪いことにそんな時に真壁が脳溢血で倒れ、ワインのすり替えができなくなってしまう。

店に出るようになったさくらはさらに欲を出し、摩耶の上客である山野社長の愛人の座を摩耶から奪いとってしまう。そしてさくらは銀座の別の店に移籍、摩耶の上客の多くを奪っていく。摩耶は激怒、特に自分を裏切った山野社長に復讐を誓う。「山野に5億円無駄使いさせてやる」これが摩耶が考えた復讐であった。相談を受けた陽一と謙介は、山野の会社が販売している毛生え薬に脱毛剤を購入して山野の会社を脅迫する手を思いつく。そして、5億円は奪い取るのではなく、謙介がいれこんでいた競輪のハズレ車券を買わせることで散財させる、それも大穴車券を5億円で買わせることで、それ以外の車券の払戻金を莫大な額にせり上げ、自分も車券を買って儲け、ひどい目に合わされたノミ屋のヤクザにも莫大な払戻金によって仕返しができると謙介は考える。陽一と謙介は山野の会社を恐喝はしたが、実際に毛生え薬のすり替えをしてそれを発表することまではしなかった。

摩耶、陽一、謙介はこうして山野に復讐するのだが、横山と摩耶はさらにウワテだった。横山は陽一と謙介が考えた脅迫を山野の製薬会社を相手に実行、株価の暴落に乗じて株の空売りで大儲けした。摩耶も貯金をはたいて空売りに便乗、数億円を手にしていたのだ。摩耶はこの資金を元手にして自分で店を持つという、そして陽一に店長になってくれと持ちかける。

銀座のクラブ、競輪などのギャンブル、ニセのワイン、株の空売り、みんなフェイクである。そんなフェオクで手にしたお金は所詮フェイク、身にはつかない、陽一と謙介は最後はそれを学ぶが、本当に理解できたのかは不明である。陽一は摩耶に世話になったとともになにか騙されたとも感じた。謙介、さくら、横山に相談して、今度は摩耶の新しい店でワインのすり替えをするのである。

フェイクに魅せられた人間は一生フェイクから逃れることは出来なくなるのであろうか。

フェイク (角川文庫)
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コメント一覧

あららぎ 雄一郎
フェイク書評
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